1.再燃する首都機能移転論
東日本大震災は、一旦幕引きされかけた首都機能移転論に再び灯をともすことになった。国土のわずか0.6%に首都機能を集中させる現行方式のリスクが、東日本大震災によって顕在化したためである。
超党派の「危機管理都市推進議員連盟(NEMIC)」は、首都・東京が大災害やテロなどによって機能不全に陥った場合に、代替機能の役割を担う「副首都」建設にむけて検討をはじめている。首都・東京をバックアップできる副首都を複数用意することにより、首都機能一極集中型よりもリスクヘッジできるようにしようというのだ。
2.首都機能
一極集中型と首都機能バックアップ型は同じ穴の狢である 筆者は首都機能一極集中型も、今回NEMICが進める首都機能バックアップ型も、国家的危機管理という観点からみれば同じ穴の狢ではないか、と考えている。というのも、両者ともに首都機能の中心を担う都市が想定されているという点で同型の首都機能のあり方だからである。
首都機能一極集中型は、特定の都市にほとんどすべてが集まるため、リスクヘッジという点では極めてまずい。おそらくこれは誰にでもわかることである。 一方、首都機能バックアップ型は、首都と複数の副首都がデュアルに機能することになるため、一見すると首都機能一極集中型とは異なるように思われるかもしれない。
しかしこれは、複数の副首都の一番の土台にメインの首都があり、それに乗りかかるかたちで副首都がバックアップとして機能することになるため、つまるところ首都機能一極集中型と何らかわるところがないのである。つまり、首都機能バックアップ型は、特定の都市が首都を担うという点で首都機能一極集中型と同型なのだ。
そのため、首都機能一極集中型と首都機能バックアップ型は、中心にある都市が大災害やテロで機能不全に陥ってしまえば、いずれにしても日本全体が大混乱に陥る事態を回避できないと考えられる。僕はこのような、首都機能が特定の都市に依存した議論を指して「中心型首都機能論」と呼んでいる。
3.首都機能移転論の成立条件
ここにきて首都機能移転論が再燃した理由は、国家的危機管理が根本モチーフである。つまり、首都が大災害やテロなどに見舞われても、日本全体が機能不全に陥らないようにするにはどうすればいいか、という切実な問いが、首都機能移転論再燃のドライバであったと言える。
こうしたモチーフに届く首都機能は、(1)特定の都市に首都の中心を置かないこと、そして(2)首都機能の一部が麻痺しても他のところで相補的なネットワークが形成されること、の2つの条件を満たしている必要があると考えられる。なぜなら、この2条件が満たされることによって、一部で機能不全が長じても多方向から代替機能が働き、日本全体で機能不全に陥る事態を避ける可能性が担保されるためだ。
たとえるなら、インターネットのようなシステムとして首都機能を再編させることが、国家的危機管理というモチーフに届きうる可能性の方法だと考えられるのである。筆者はこのような首都機能の考え方を指して「脱中心型首都機能論」と呼んでいる。
4.脱中心型首都機能論のすすめ
脱中心型首都機能論の特長は、首都機能を複数の地域に分散させるものの、特定の地域で特定の機能を担わないと考える点にある。それでは、特定の機能が中心性を帯びてしまい、そこがやられてしまえば他の代替機能が働かないためだ。 そうではなく、脱中心型首都機能論では、日頃から複数の地域が連立的なかたちで業務にあたると考えることになる。つまり、複数の地域で首都機能が併存する関係性のなかに、首都機能の全体像を見るのである。
たとえるなら、インターネット様の首都機能を実質化するのだ。 この発想では、首都機能の一元化が打消されるぶん、政治や行政の無駄を生み出すのではないか、あるいは経済活動が非効率になるのではないか、という疑問を持たせるかもしれない。そうした問題は国民ID制度の導入と情報のクラウド化によって技術的に回避できるのではなかろうか。
国民ID制度の導入は、平時であれば国民の理解を得られにくいだろうが、東日本大震災によって国家的危機管理という問題意識を共有しやすいと考えられるため、その文脈から導入を進めていける可能性があると思われる。また、国家情報のクラウド化はITの発展によって実現できる見通しは立つはずである。
もちろん、情報漏洩の問題は残るものの、「尖閣ビデオ」の流出さわぎにみられるように、クラウド化されていなくても漏れるものは漏れるのである。
この他にも脱中心型首都機能論には、それにかかる費用などの問題は残る。しかし、国家的危機管理という観点からみれば、首都機能一極集中型や首都機能バックアップ型よりも優れた点があると考えられる。東日本大震災の教訓を活かすためにも、首都機能移転論の熟議を期待したい。
(京極真 吉備国際大学大学院保健科学研究科准教授)
コメント
もう少し具体的に言うと、こんな感じでしょうか。
・職住近接
帰宅難民が激減する、非常時の仕事と家庭の時間割り自由度が高い、
日常でも通勤時間・距離というロスが減る
・サプライチェーンの再構成速度アップ
人・物資・材料・エネルギー・物流の現状をリアルタイムに収集し、
復旧に合わせて再構成してゆく技術(無線通信と人工知能による支援)
こういう技術はトヨタなどの大企業が優秀ですし、米軍・自衛隊なんかは
プロと言ってもよいでしょう。
これさえ出来れば、ハードウェアは現状(或いは現状からの漸進)でも構わないかと。
言い方を変えると、都市をもう一つ準備するのではなく、都市を分解して
自在に再構成し易くする、といった感じです。
政治家や官僚という意味での首都機能は、考慮しなくても良いでしょう。
代わりなんて いくらでも居ますから。