震災復興財源をどうするか? 忘れてはならない「世代間公平」の視点

小黒 一正

現在、政府・与党は、先般の東日本大震災からの復興に向けて、「復興構想会議」を設置し様々な検討を行っている。この関係で、復興構想会議は、今後の議論の土台とする「復興構想7原則」を公表しており、6月末に「第1次提言」をまとめるとしている。


だが、提言を現実的なものにするためには、被災地の復旧・復興に必要となる財源をいかに確保するのかという議論は不可欠であるが、上記の復興構想7原則には復興財源に関する原則はない。

その結果、5月21日開催の復興構想会議では、復興財源を確保する観点から、新たに国債を発行するとの考えで一致しているが、国債の償還方法などの具体的な復興財源問題については、下部組織の「検討部会」で協議を進めるとしている。

このような状況の中、伊藤隆敏東大教授・伊藤元重東大教授らは日経新聞の経済教室(2011年5月23日)において、震災復興に向けての提言を行った。

提言の詳細は、伊藤隆敏教授の研究ホームページで誰でもみることができるが、この提言では、①世代間の公平性、②市場の活用、③持続可能性という3つの原則を提示している。

このうち、第一の原則である「世代間の公平性」との関係では、復興財源のあり方について以下の主張を展開し、消費税率の引き上げ、固定資産税に対する国税としての付加税、所得税の課税最低限の引き下げ、所得税の特別定率増税、法人税減税の一年先送りを提言している。

「15~20 兆円の追加的支出をすべて国債の追加発行で賄い、将来時間かけて返済していくという選択は、人口が増加していて、経済成長率が高く、政府債務・GDP比率が低いという経済では、正解だ。
残念ながら、現在の日本経済は、この3 条件をすべて満たしていない。
「復興国債」を追加発行して、10 年後に返済する、というのでは、退職、年金生活に入る比較的高所得のベビー・ブーム世代の人は負担を逃れ、これから10 年の間に労働市場に参入する比較的低所得の若年層に負担をシフトする。
…(中略)…
「復興国債」のアイディアはツケの先送りで、著しく世代間の公平性を欠く。
こうしてみてくると、「増税か、国債か」、という選択肢の立て方が間違いだ。正しい選択肢は、「今生きている世代が負担するのか、将来世代が負担するのか」、ということである
低成長、人口減少のなかで、次世代にツケを回すのは止めよう。」


具体的復興財源をどうするかというも問題はあるものの、筆者や筆者が関係するワカモノマニフェスト(『若者はなぜ3年で辞めるのか』(光文社新書)の作者である城繁幸氏らと共同運営)は、伊藤隆敏教授らの提言に基本的に賛成である。

というのは、今回の震災に伴う復興対策の財源として、「課税の平準化」を行う観点から、国債発行という議論もあるが、この「前提条件」については留意が必要であるためである。

そもそも、「課税の平準化」とは、今回の震災や景気低迷といったショックで経済が変動し、政府支出の一部を税収で賄うことができないケースが発生した場合、その不足部分を国債発行で賄い、負担を将来にわたって平準化するのが望ましいという理論である。

その際、「課税の平準化」理論は、中長期の財政収支が均衡していることを前提としているが、そもそも、震災前において、巨額の財政赤字が継続しており、バケツに穴があいたような状態になっていたからである。つまり、「もともと、課税は平準化されていなかった」と考えるのが自然である。

その結果、財政赤字という形で、その負担を将来世代に先送りしていたのであり、増税のタイミングの問題はあるが、できるだけ早い段階で赤字を閉じる必要があることは間違いない。世代間公平の視点も含め、政治のリーダーシップが望まれるところである。

(一橋大学経済研究所准教授 小黒一正)

コメント

  1. ikuside5 より:

    よくある、歳出削減が進んでないことを理由に増税を先送りする議論について、私もずっと以前は、それはもっともな意見だと思っていたのですが、最近はほとんど同調できなくなりましたね。なぜかというと、すでに歳出の削減になるような各種の裁量は既に発動しているし、一方で負担増も同時的に進んでるわけでして。各種年金保険料の実質的な値上げになるような施策と、支給の制限とか先送りもすでに徐々に始まっている。目に見えにくくなっているというだけのことかと思います。今のやりかたは、厚労省とかの現場の裁量にまかせてうやむやに切り捨てていくやり方のように思える。それでいいのか?という議論がもっとなされないといけないと思います。と同時に政策の効率を上げるためにやることは山のようにあるし、手付かずにままになっていることが多すぎるので、そういうことにメスを入れることで日本経済は復活すると思ってますけども。