へそまがり、横着者の誹りは甘んじて受けます。
小谷さん、石水さんのエントリーは、まさにその通りでして、書かれていることにマチガイはございません。
とくに石水さんのご説明は懇切ていねい、かつ要点を得ています。意地悪を言わせていただければ、これを読んでおけば、ここかしこに掃いて捨てるほどいる「中国進出コンサルタント」のコンサル料の1時間分ほどを節約できるでしょう。
しかしあえて言わせてください。
いまさら香港ですか?
震災後の節電パニックとエネルギー政策の迷走(なにも迷走は「エネルギー政策」だけじゃありませんが)というリアルな問題が、日本の経営者にのしかかっていることは分かります。
しかし新興国市場の重要性や、そうしたアジア新興国のハブとしての香港やシンガポールの重要性は、「アジアの世紀」が叫ばれ始めてから過去十数年間あまり、世界中のだれもが認知していた事実です。
それを大山鳴動した後のネズミよろしく、突然「アジアだ、中国だ、香港だ。」と。
私としては、こうした風潮に危機感を覚えずにはいられません。その理由は、小谷さん、石水さんも言われるように、最近こうした「にわか海外進出組」のみなさんが、大挙して香港に来られているからなのです。
失礼を承知で言わせていただければ、日本にいたままではビジネスの先行きがおぼつかなかったのは、震災の有無に関係のないことだったのではないでしょうか。
震災によってようやく重い腰があがったことは、なにはともあれ、めでたいことですが、これが「トレンド」となり、日本人特有の「赤信号、みんなでわたれば」なんとやらで、経営者のみなさんがツアーを組んでやってくる様を眺めていると、以前つかった比喩のごとく
「カモがネギしょって、ごていねに土鍋までかついで」
という気がしてなりません。
ご自身は「アジア進出!」とはりきっておられるのかもしれませんが、現地のビジネスの相手からは「震災/原発疎開」と足下を見られていることが、「社長島耕作」(よく調べてあるマンガですが)を読んで、日本人同士のツアーでやってこられて、現地の日本人コンサルタントとミーティングされているだけでは、まったく実感できていないのではないのでしょうか。
「アジアの勃興」も、「中国市場の急成長」も、「香港の利便性」も、別に今回の震災とは全く関係ない既成事実です。
もちろん、これからの日本人が、以前にもまして海外に雄飛しなければならないことは自明の理ですし、私も応援したい気持ちは山々です。せっかく思い立って、志をたてられた方々の足を引っ張るマネはしたくありません。
しかし、上海進出された日本の中小企業の現地法人/代表事務所は「3年ローテーション」といわれています。大体予算2~3億円あまりを投じて、3年もたつと、足場も橋頭堡も築けぬまま、8割のみなさん静かに撤退されていくのです。
経営者として「ヒヨッコ」どころか、まだ卵のからをかぶったまま、「カリメロ」状態の私がこうしたことを言うのは、噴飯ものであることは百も承知、二百も合点。しかし岡目八目とやら。あえて以下の「反対尋問」の冷や水をかけさせていただきますので、石橋を叩くよすがにしていただければ幸甚です。
1.チャイナ・リスク
先日、中国で起業10ン年という日本人ビジネスマンとお食事をした際、意見が一致したのは
「でも来年の中国がどうなるのか、全く分からん。」
ということでした。
極言すれば、この夏以降の中国がどうなるかもわかりません。中国人に聞いても分かりませんし、過去十数年の経験をもってしても、分からないのです。
リーマンショック後の中国政府の金融緩和政策のおかげで、現在マーケットにマネーはジャブジャブ状態。
「今が旬」とばかり、中国向け投資ファンドをこしらえたファンドマネジャーの皆さんが、必死の思いでファンド・レイズして中国に乗り込んだところ
「もう、おカネは要りません」
といわれて立ち往生、というのが、ここ数年の悲しい笑い話でした。
それがここにきてリアルな消費者物価の高騰と、その間接/直接の結果としての「社会不安」が表面化。政府は金融引締めに大わらわ。景気の減速は避けられないでしょう。
その一方で、世界の工場を目指していた製造業は、人件費の高騰、原材料費の高騰、原油の高騰、とトリプルパンチをくらっています。
中国の経済が今後も成長を続ける、いや続けなければならない、ということは自明の理ですが、今のバブルなペースが維持できないことも確かです。
「中国進出に社運を賭ける!」前に、リスクの分散を図るのが先ではないでしょうか。
2.香港はパス・スルー
香港は「中国への窓口」として便利ですが、あくまでもパイプとして便利なのであって、実業にとって利のある地とは言いかねます。
石水さんがいわれたように、確かに香港法人を設立し、金庫(銀行口座)を香港におき、お金の出し入れを香港経由で行うことは大正解です。
しかし香港に「人」をおくコストは高いですし、実際のビジネス・チャンスは香港を経た向こう側にあるのです。
香港は日本の裁判官が大キライな金融とその周辺のサービス業の地です。実業関係の皆さんはそこを理解していただいた上で、どのように香港を利用されるのか、それぞれに思案が必要なところでしょう。
3.日本の「技術力」「モノ作り」を過信するな
これは先日の松本さんのエントリーにつながるかもしれません。
いくら優れた技術でも、そのままでは「金のなる木」にはなりません。技術を「売れる商品」にするには、それ相当の努力と資金が必要です。当たり前のことですが。
誤解を恐れずに言わせていただければ、今の日本の「技術」に必要なのは、「天才お茶の水博士」ではなく、トランジスタ・ラジオを抱えて、家族でアメリカに移り住み、ニューヨークの五番街に殴り込みをかけた、盛田昭夫さんタイプの人間です。
幸か不幸か(多分不幸だと思うのですが)、日本では「技術力」や「モノ作り」といったスローガンが、国民の安直な愛国心と、政治家のスタンドプレーのダシにされ、ナマの「技術」が、そのままの姿で、補助金などの公的資金(=皆さんの血税)を引き出す「撒き餌」となってしまっています。結果、技術者の一番の仕事が「補助金申請」などという笑えない事態が散見されます。
お役人様の予算とりに使える「技術」と、世界が必要としている「技術」の間には、相当の隔たりがあるのです。
4.陣頭指揮はあたりまえ
決定権の無い人を相手に繰り返すミーティング。
仕事につながらない「ご挨拶」。
名刺コレクション=営業。
世界的に定着し、グローバルに失笑を買っている日本企業の悪習を、そっくりそのまま海外で繰り返しても成功におぼつかないことは説明するまでもないでしょう。
未開の市場で、道無きところに道を敷き、人脈のないところにネットワークを築く大業を、社長がやらずして誰がやるのでしょうか。
5.人は城、人は石垣、人は堀
成功の鍵をにぎるのは、言葉の通じる日本人コンサルタントより、心が通じた現地のビジネスパートナーです。
失敗例は枚挙にいとまが無いのですが、おおかたは上記のようなところでしょう。
つまり、
(1)確固たるリスクの認識
(2)戦略的視点にたったストラクチャー構築
(3)グローバルに俯瞰した上での、自己の優位点、セールスポイントの掛け値なしの再評価
(4)リーダーシップ/マネジメント
(5)取引先とのパートナーシップ、いわゆる「win-win関係」の構築
といったところでしょうか。
私、個人的には、これからは、中国よりも、他のアジア新興国が面白く、アジア新興国よりもこれからの日本の「再起」が近い将来のビジネス・チャンスにつながっていくと思って注目しています。
「財政破綻」というリスクがじゃまをしていますが、そうした日本国家の「なんちゃってエリート」トップ層の「おバカぶり」を補ってあまりある日本人の強さ、優れた国民性が今回の震災でクローズアップされたことを忘れてはならないでしょう。
少子高齢化による国家の世界的地位の後退は、如何ともしがたいですが、それでも決して無視できない巨大国内マーケットは、一朝一夕には無くなりません。
この国内マーケットで堅実に利益を産み、成長性を期せるビジネスモデルであれば、五里霧中、魑魅魍魎の跋扈する中国市場にあえて分け入り、虎の子の資金を投下するよりも、よほど確実なビジネス・チャンスです。
くり返しになりますが、日本のマーケットにたれ込める暗雲は、「財政破綻」というソブリン・リスク。平たく言えば、国家の舵取りにあたっている政治家、官僚、指導者層、「逃げ切り」管理職世代のいたらなさ、腹のくくり方、すわりの悪さです。
ここから派生する通貨リスク、増税リスクの荒波から、いかにして世界から評価されるべき「マジメでまとも」な日本のビジネスの価値を保全するか。
こうした視点に立ったとき、向いている方角は正反対ですが、自ずと「香港」という地の別の利用価値がみえてはこないでしょうか。