変動金利で住宅ローンを組んでいる方へ

井上 悦義

以前にも変動金利のリスクについて記述をしたことがありますが、改めて変動金利で住宅ローンを組んでいる方は、早めに再考して欲しいと感じています。

1990年代後半以降、長期金利は1%台で推移する状況が10年以上続いているため、これが当たり前となって、金利はすぐに上がらないと思われている方も多いはずです。

しかし、今の状況こそが異常なのです。2003年6月に0.435%を記録するなど、イタリアのジェノバで1619年に記録された1.125%という過去最低の長期金利もあっさりと更新し、また1611年から1621年まで続いたと言われる長期金利1%台の連続記録をも更新し続けています。つまり「400年ぶり」に超低金利の世界記録を塗り替えている状況が継続しているのです。世界の歴史でも例がないこの超低金利はやはり異常であり、いつまでも続くとは到底思えません。


住宅を購入する際に「景気が悪いから、変動金利は当面上がらない。金利が上がっているときは、景気も良く、給料も上がっているから大丈夫」という‘セールストーク’によって、変動金利を選択した方もいるでしょう。実際に私の周りでもそう言われて、変動金利で住宅を購入した友人がいますし、私も不動産屋に行った際にそう言われたことがあります。

しかし、穿った見方をすれば、銀行はどこかから資金を長期固定で調達してこない限り、長期固定でお金を貸すのは、自行でリスクを取ることになります。金利が上昇した場合、預金者には預金金利を上げないといけなくなる半面、住宅ローンの融資先からもらえる金利は一定のため、逆ざやになってしまう可能性があるからです。リスクを取りたくないから、金利上昇時に預金者と融資先の双方にリスク転嫁が出来る変動金利を勧めているのかもしれません。商売上、リスクを回避するのは当たり前のことだからです。また、不動産業者も住宅購入のメリットを少しでも大きく見せるため、変動金利による低金利での試算をしがちです。住宅を売るのが仕事だからです。

その結果、以前の記事の通り、日本では幅広い意味での変動金利型(変動金利型、固定金利期間選択型)の住宅ローンを抱える方が異常に膨らんでしまっており、この状況を非常に危惧しています。

世の中には「良い金利の上昇」と「悪い金利の上昇」の2つがあります。「良い金利の上昇」は景気が良いときに起きるものであり、このときは、給料も上がることが期待できるため、多少の金利上昇では問題が生じないかもしれません。しかし、今のギリシャのように景気が悪いのに信用不安から金利が上昇し続けることも、もちろん起き得ます。これが「悪い金利の上昇」です。これが起きてしまえば、給料は不景気で上がらない反面、ローンの支払金利だけが一方的に上がり続けるという最悪の状態に陥ります。

お金の運用は、「金利上昇が予想される場合は変動金利型」、「金利低下が予想される場合は固定金利型」の商品が有利ですが、借金の場合は、「金利上昇が予想される場合は固定金利型」、「金利低下が予想される場合は変動金利型」の商品が有利です。

今後、金利が下がっていく見込みがあれば、「変動金利」「固定金利期間選択型」で住宅ローンを組むのは問題ありませんが、現在のように長期金利が1%台で長年定着して、下がる余地もこれ以上ない場合は、借金の金利は「全期間固定金利型」にしておくのが賢明です。

ましてや今は、日本の財政危機が深刻化しており、また権力闘争に明け暮れ、実行力のない政治を見るにつれ、「悪い金利の上昇」がいつ起きてもおかしくありません。よって、長期固定金利への変更は、早ければ早いほど安全なものとなるでしょう。

変動金利で住宅ローンを組んでいる方で、金利が上昇し始めてから長期固定金利に変更すれば良いという方もいるかもしれませんが、一般的に長期金利は短期金利より動きが速く激しいため、金利が上昇し始めてからの変更では手遅れになる可能性があります。よって、「金利が上昇し始めたら固定金利に変更する」という方は、「長期金利が1.x%を超えたら、固定金利に換える」など、強い意志を持って事前に決めておく必要があります。(長期金利は、日経新聞のマーケット総合面に市場開設日の翌日に掲載されます。)

現在ほどの低金利でも固定金利に切り換えると金利の上昇で、家計が厳しくなるという方もいるでしょう。保険の解約などを含めて家計を見直すのも一つの方法だと思いますが、それでもやりくりが出来なくなるという方もいらっしゃるかもしれません。しかし、これほどまでの低金利環境下で、わずか数%程度の金利上昇で家計のやりくりが出来なくなるのであれば、売却も視野に入れ、早急な対策を講じるべきです。

リスクを回避することは何事においてもとても大切です。日本版サブプライムローン問題が起きないことを願っています。

※参考:金利が〇〇%になれば、月々の住宅ローンの支払額がいくらになるかは、Excelに次の“”内の式を投入すると計算できます。“=PMT(3%/12,360,-30000000,0)”(金利が3%、年間返済回数12回、30年ローン(360回払)、借入金額3000万円の場合。同じ条件の下、今のギリシャのように金利が上昇し、仮に金利が10%になれば、毎月の支払額は25万円を超え、20%になれば50万円を超えます。)Excel 2010の場合、「ファイル」→「新規作成」→「サンプル テンプレート」→「ローン計画書」というテンプレートがありますので、そこからも計算できます。

井上 悦義(アゴラ執筆メンバー) 
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