7月3日の日本経済新聞に『新潮社・講談社・学研、新刊書すべて電子化、月400点超、普及に弾み』という記事が出た。「新潮社は今年2月に出版した新刊を8月に電子化して配信を始める。講談社や学研ホールディングスも作家との交渉に入った」という。
この記事で印象深かったのは、「出版各社は原則として、すべての配信サイト・携帯端末に電子書籍を提供する考え」という部分である。紙の書籍はどの書店でも入手可能だが、電子書籍は配信サイトや携帯端末によって入手できない場合があった。それが正される方向に動き出すのは歓迎だ。
しかし、疑問も残る。記事は「電子書籍の価格は紙の7~8割ほどに設定する計画」だという。流通と在庫に経費がかからない電子書籍は、もっと安く提供できるはずだ。あまりに安く提供したら書店離れが加速しないかと躊躇して、この価格設定になったようだ。「新潮社は紙の書籍への影響を考えてまずは半年遅れで電子化する」という方針にも、躊躇の様子が見える。
ベストセラーが電子化されるまで、半年待とうという読者はいるだろうか。朝日新聞など新聞の電子版でも、同様に販売店を守ろうという姿勢がうかがえるが、それは正しいのだろうか。「だから電子書籍・新聞は日本では普及しないのだ」というアリバイ作りではないか、とさえ疑いたくなる。出版業界はもっと利用者本位で考えるべきではないのだろうか。
同業他社の動きも気になる。情報通信政策フォーラムの今月のセミナーはタイミングよく、小学館で電子書籍に取り組む岩本 敏氏にお願いしてあった。どのような講演になるか、興味深い。
山田肇 - 東洋大学経済学部