世界がこれからも原発を作り続ける単純な理由

藤沢 数希

福島第一原子力発電所の事故以来、日本では原発ヒステリーが吹き荒れている。しかし日本はこれから人口が減少し、経済も衰退していく国なので、日本が脱原発をしようが、世界の趨勢にはそれほど影響はなかろう。世界は今後も原発を作り続けることはほぼ確実なのであるし、また、そうするべきなのだ。現在、世界で500基弱の原発が稼動しているが、中国だけで60基の原発が建設中、または計画中である。中国は今後、年間6基程度の原発を新規に建設していく予定である。大気汚染のひどい中国で、石炭依存の脱却が進むことは、人々の健康に取って好ましいことだろう


20世紀は科学の世紀であった。先進国では自動車やエアコンなど、人々の生活を豊かにするものが次々と発明され、そして普及していった。人々は大量のエネルギーを消費するようになった。エネルギーの主役は、常に石油や石炭などの化石燃料であった。その結果、大量の廃棄物を地球に放出し続けることになったのである。以下は、化石燃料を燃やすことにより生み出される、国民一人当たりの年間CO2排出量である。

国民一人当たりの化石燃料による年間CO2排出量
出所: CO2 Emissions from Fuel Combustion 2009 (IEA)

世界平均で一人当たり約4.4トン/年である。アメリカは18トン、日本は9トン、中国は5トンほど排出する。これは化石燃料を燃やすことにより排出されるCO2気体の重量である。現代文明は、二酸化炭素という気体の重さだけで、これだけの廃棄物を石油や石炭を燃やすことにより地球に排出し続けているのである。ブラジルのある南米は2.3トンほど排出する。インドは1.2トンほど、またアフリカは0.9トンほどのCO2を排出する。

日本全体では年間12億トンほどのCO2を排出することになる。核燃料廃棄物は日本の全ての原発から年間1000トンほど排出されるが、CO2という気体だけで、化石燃料の廃棄物は120万倍になる。これが多くの専門家から、実は核燃料廃棄物の処理の方がはるかに簡単だといわれる理由である。地下などで最終処理するだけなら、全く嵩張らない核燃料廃棄物はむしろ取り扱いが非常に楽なのである。その点、大気中に排出されたCO2を回収するのは極めて困難である。

さて、21世紀はどういう時代になるのだろうか? それは中国などの新興国の国民が、アメリカ人のような生活をはじめる時代なのである。より多くのエネルギーを消費し、より多くの文明の利器を享受することになる。今、中国やインド、ブラジルなどの新興国は爆発的な経済成長を遂げている。そして21世紀も半ばに差し掛かる頃には、今度はアフリカがアメリカ人のような生活をはじめる。人間というのは、より豊かになりたいものであり、そのことを誰も止めることができない。そして、世界の人口は経済成長と共に増加し続ける。2050年には100億人近くの人口を、この地球は抱えることになるだろう。

世界人口の推移
出所: 国際連合、世界人口予測(中位推定)

これだけの人口が、アメリカ人みたいにひとりで年間20トンもCO2を排出し続ければ、地球は壊れてしまうだろう。そして、現在、人類が利用可能なテクノロジーで、経済成長と人口増加の中で、地球環境の破壊を少しでもスローダウンできるエネルギーは原子力をおいて他にないのである。

参考資料
Nuclear Power in China, World Nuclear Association
“FUKUSHIMA”後、世界の原子力は縮小するのか? アゴラ
地球温暖化問題を正しく理解する、金融日記