こんな記事が気になりました。
「若者の高学歴化、就職にはつながらず」(労働経済白書)の見出しです。
2011/7/8付の日経新聞では、「細川律夫厚生労働相は8日の閣議に2011年版「労働経済の分析(労働経済白書)」を提出した。大学進学率が1990年以降20年で急速に上昇する一方、教える内容が社会のニーズに合っていないと分析し、若者の高学歴化が必ずしも就職につながっていないと指摘した」。
卒業しても仕事がない若者を減らすには、大学の就職支援や、学生に教える内容の再検討が必要だと強調したのだそうです。はたして、細川大臣の指摘は正しいのでしょうか。
私は、学生への就職支援は必要ですが、教育内容の再検討は、大学に向けたものであれば、当たっていないと思います。
大臣が指摘した骨子は高学歴化が、就職につながらないことです。この背景の問題には、90年代のバブル崩壊以後、きちんと国の戦略が練られていないことにあります。
中国や新興国が台頭する中で、日本企業のバブル崩壊後の生命線をどこに求めるかの解答が見つからないまま、やがて新興国が台頭し、猛追され、GDPでも、中国に抜かれました。それでも、きちんと将来の青写真が描けない日本に問題があるのです。それは、大学の教育内容にも青写真がないため、マッチングできないのです。
特に今起きている、原発をどうするのか、高度工業国として、世界をリードするのか、あるいは、原発をやめて、高付加価値商品を生むのか、官僚にも、政治家にも、大手企業にも、誰も描けない。ましてや大学に何を期待できるのでしょうか。
またインサーダー取引疑惑の官僚や、頭脳を失った政治家、自分の会社さえよければ、国民を犠牲にしてもよい、とする企業風土。それらの流れから、もうかればよいとする大学や学部の乱立こそが就職できない理由の一つでしょう。小学生用の教材を使い指導しながら、就活を世話する教員、理解できない学生。すべてが、末期症状を呈しています。
<原発問題と似た構図が横たわる>
法律などで固く構築され、権益が守られている大学は、ご存じのとおり、世界のランキングに入るのはほんの一部でほとんどは、劣化して世界水準とは程遠い存在になっています。
まとめるとこうなるでしょう。
・官僚の劣化 文部科学省官僚は大学許認可の権益をにぎり大学、関係団体に天下る
・大学の劣化 一部の大学は補助金目当ての経営と化している
・消費者(国民)の劣化 甘いシナリオに夢見る親子が深く考えもせず、入学して後悔する
<高学歴化は就業意欲につながらないは本当か?>
白書の中では、「大学を卒業して就職も進学もしない人」の割合は2010年で24.2%でした。2000年に32.4%と過去最高になった後は景気回復で就職する人が増え、就職・進学ともにしない人は減っていたが、09年以降は増加に転じ、10年は大きく増えています。
求人側のニーズは景気に左右されるからでしょう。単純にリーマン・ショックの影響が大きかっただけではないでしょうか。たとえば新卒ニーズが高いサービス業には、労働時間が長く低賃金のため、大学生からの人気は低く、とくに万年人出不足を嘆く居酒屋などのフードサービスへはあまり行きたがりません。こうした学生の志向も影響されます。
一方で、大学の学科別に入学者を見ると、1990年代は特に人文科学、社会科学が増え学生増をけん引しました。現在でも学生の約半数は文系の学部にいますが、これは、大教室に教員1人がいれば、すむ設備投資が節約できる利益率が高い大学経営の影響でしょう。
卒業後、「就職も進学もしない人」を学部別に分析すると、理学、工学、農学は少ない一方、人文科学、社会科学、芸術など文系では多いのは当然です。将来の求人分析をして、開設したものではないからです。白書は「大学定員は拡大してきたが、その際の学科構成は社会のニーズに合わせて拡大してきたとは言い難い」と厳しく評価していますが、社会のニーズとは何を指すのでしょうか。
<厚労省が文科省にケチをつけた>
つまり、細川大臣のコメントは、厚労省の役人は、文科省の役人はけしからん、と言っている話しに過ぎないのではないでしょうか。
なぜなら、大学認可、補助金などは、文部科学省が握っているからです。今回の白書のつくり側は、厚生労働省だからです。
<文系は撃沈、耐える理系>
今年3月に4年制大学を卒業した学生のうち、5人に1人は就職や進学などの進路が定まらないまま卒業していたことが、調査でわかりました。不安定な立場にいる卒業生は、少なくとも9万人にのぼります。全卒業生に占める割合を学部系統別でみると、最大で約5倍の格差があり、理系より文系の方が就職や進学に苦戦している傾向がみられるのだそうです。
「就職、進学しない卒業生」(2011年3月卒)の割合を見てみましょう。
芸術・スポーツ・科学 36.5
法・政治 27.7
文・人文 26.2
経済・経営・商 25.2
教育 23
社会・国際 22
農 13.1
理 12.6
工 10.6
薬 9.8
医 6.7
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<平均すると>
文系 27%
理系 11%
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これだと、理系は約9割就職、文系は約7割就職できることになります。企業でいえば、理系のように実験室も器具、機械設備もいらない文系学部は、大学経営のドル箱といえます。大雑把に言えば、教室と教員さえいれば、学部開設できます。
実験やレポート作成で昼夜学校にいることが多い理系は、設備投資も必要であるし、教室開講時間も長いわけです。安直な大学経営であれば、手軽な投資で顧客(受験生、入学者)を呼び込める学部こそが望まれるところでしょう。それによると、卒業者のうち、就職者は62.2%、大学院などへの進学者は16.1%だった。就職、進学者以外と、アルバイトなど「一時的な仕事」に就いた者、「不詳など」を合計した卒業生は20.8%にのぼったとあります。
さまざまな資料から、読み取ると、国の戦略→大学の人材養成→学部と、大きな流れから教育内容を練り直すことが、有効であると思います。
・資料:朝日・河合塾の大卒進路調査、協力大学・大学院一覧
調査は、全国の国公私立大学計759校を対象に実施。558大学から回答があった(回収率74%)。
鈴木和夫(ジャーナリスト)