新幹線の焦点が変わりそうな大事故

大西 宏

中国高速鉄道事故で亡くなられた方々のご冥福を心からお祈りし、また負傷された方々へのお見舞いを申し上げます。

それにしても、中国高速鉄道事故が、追突事故だったことはにわかには信じられませんでした。日本でも鉄道の追突事故はありますが、新幹線に関しては想像もつきません。
事故原因についてはこれから究明されることと思いますがシステムか、人の問題かのいずれか、あるいは複合した事故だろうということは容易に想像されます。


さて、この近年で日本で多数の死亡者のでた鉄道事故といえば、1991年の信楽高原鉄道事故の42名が亡くなられ、また2005年のJR福知山線脱線事故で107名が亡くなられたことが思い出されますが、いずれの事故も、複数の原因が重なって発生したものでした。JR福知山線脱線事故では、厳罰主義の日勤教育にも問題が波及しました。

そういった事故を通して、鉄道の安全を保つためには、列車の問題だけでなく、安全装置や運用のシステム、また教育、現場での業務のあり方、さらには経営にまで及ぶ、ハード、ソフト、また人を総合的にコントロールするシステムだということを日本は学んできたと思います。

今回の中国の高速鉄道事故原因が、運行管理上の問題だったのか、車両にも欠陥があったのかは不明ですが、世界の高速鉄道の安全に対する視点が、スピードの競争という一つの要素だけでなく、そういった総合的な安全な運用・管理のしくみの質にさらにむかうのではないでしょうか。

もちろん韓国の高速鉄道のように列車の故障が多発すると問題ですが、おそらく日本が新幹線事業で世界に貢献できることは、列車をつくる技術だけでなく、むしろそういった総合的な運用・管理のしくみであり、新幹線の経営そのものでしょう。韓国高速鉄道、故障相次ぐ 輸出拡大に黄信号も  :日本経済新聞 :
そういう点では、今回追突した列車の技術供与を行った川崎重工だけでなく、新幹線運行の総合システムを管理しているJR東日本も事故調査に協力を行うべき問題ではないかと感じます。中国政府が受入れるかどうかは別問題ですが。

今回の事故の前から、中国高速鉄道は開通後に、一部車両の出力喪失による走行能力低下や、架線など送電系統の障害もあったと報道されており、今回の事故がさらに中国が独自で開発したという運用システムに疑問符がつきました。

中国政府がしっかりとした事故調査を行わない限り、中国の高速鉄道に対する国内外からの信頼は大きく揺らぎます。中国国内では鉄道行政に対する批判が高まっているようですが、中国政府が追突車両の最前部を破壊して埋めたというのはさらに信頼を失わせることになってきます。
「車両なぜ破壊・埋めた」 中国政府にネットで批判集中  :日本経済新聞 :
新幹線の列車そのものの技術だけでなく、日本がそういった運用・管理、あるいは経営をサポートするサービスを商品化できるかどうかに注目したいところです。