永田町方面の話では、菅首相が張り切っている原因は朝日新聞が応援しているためらしい。特に星浩・編集委員が強い影響を与えているという。彼は紙面でも堂々と「首相の座を去る前に、脱原発へ強いメッセージを出してはどうか。七転び八起きの『八起目』で、思い切り『虎の尾』を踏み込んでみるのも一つの決断だと思う」と書いて、脱原発を政権の延命に利用するよう助言した。首相の脱原発会見は、それに従ったものらしい。
その首相会見の日に合わせて掲載された「原発ゼロ社会―いまこそ 政策の大転換を」と銘打った社説は、あからさまに首相に肩入れし、浜岡原発を廃炉にして原発を20年後にゼロにしろと主張した。そのあとも毎日「原発ゼロ」キャンペーンの連載が続き、今週は「原爆と原発」と題して原爆と結びつけている。かつて朝日が原発推進の先頭に立った過去など忘れたかのようだ。
ところが日曜の「波聞風問」というコラムに、ヨーロッパ総局の有田哲文記者(経済部出身)のコラムが掲載された。1987年を最後に原発の新規着工がなくなり、「原発ゼロ」に向かっているイギリスの話だ。保守党政権で電力自由化を進め、発送電が分離されたため、投資の回収に時間がかかる原発が敬遠され、政府も「放射性廃棄物の処理などにコストがかかる」と冷淡だった。
その結果、電気料金は下がったが、今後10年で発電所が1/4減り、それを補う新規の建設計画がなく、電力不足が心配されているという。原発の代わりに導入された天然ガスも、今年に入って震災後に日本の需要が増えたことなどから価格が急上昇している。他方、「自然エネルギー」は、電力自由化で補助金が減って頼りにならない。これは月曜の「ワールドけいざい」でも報告している。
けさの記事では、「今夏のような政策的な節電をせずに『原発抜き』となれば、来夏は5社で電力が不足する見通し。さらに3~5年後も原発比率の高い関西、九州、四国の3社で不足が続く」という取材結果を報告し、自動車や半導体で工場の海外移転が始まったことも書いている。
どうやら首相に肩入れする政治部・論説委員室と、経済への影響を心配する経済部の意見が食い違っているようだ。社説で「原発をゼロにして再生可能エネルギーに替えろ」という非現実的な主張をする一方、原発がなくなると日本経済の打撃になるという記事を載せる朝日の紙面は支離滅裂である。こういう無責任なキャンペーンにあおられて首相が昔の「万年野党」に先祖返りしているとすれば、朝日の罪は重い。