田中角栄と小泉純一郎とスティーブ・ジョブズ

池田 信夫

小幡さんの反論は、どっちかというとオーソドックスな意見ですね。私も政治家が変わって本当に「政治主導」で改革ができればいいと思いますが、アマチュアの民主党には無理だということがわかりました。では、いい意味でも悪い意味でも「プロの政治家」の多い自民党にできるかというと、私はそれも疑問です。


次に自民党政権ができると、首相として最有力なのは石破茂氏でしょうが、彼は非常に自民党的な政治家で、安倍政権ぐらいに戻るだけでしょう。次の世代の河野太郎氏や林芳正氏ぐらいになれば、かなり変わる可能性がありますが、今度は党内や霞ヶ関を掌握できるのかという問題が残ります。自民党を変えることができるとすれば、もう一度、田中角栄や小泉純一郎のようなパワーのある政治家が出てきたときでしょう。

田中には政治理念はほとんどなく、高度成長の果実を日本中の人に平等に分配する分配の政治でしたが、90年代以降はそういう「金の力」によるガバナンスはむずかしくなった。それに代わって「言葉の力」で自民党をまとめたのが小泉でした。両者の共通点は、原則が単純でわかりやすいことです。逆にいうと、国政の複雑な問題を単純化し、自分の関心のある問題(列島改造や郵政民営化)だけに集中したわけです。

これはスティーブ・ジョブズのやり方に似ている点があります。彼もアップルに復帰してから、35種類の製品を5種類に減らし、それぞれについて基本設計から個別のアプリケーションのデザインまで口を出しました。普通は大企業では、こういうmicromanagementはろくな結果にならないのですが、命令系統と責任の所在は明確になります。

ITの場合は、ハードウェアをアジアにアウトソースすれば、必要なのはソフトウェアの設計だけなので、ワンマン経営者が隅々まで管理できるようになりました。これを活用して意思決定をコア部門に最小化して問題を単純化し、CEOの権力のスパンを長くしたことがジョブズのイノベーションでしょう。これによって製品の好き嫌いははっきりしますが、それは消費者が選べばよい。

ジョブズにならうなら、民主党政権のように何もかも「政治主導」でやろうとするのは愚の骨頂で、むしろ官僚にまかせてもいい実行レベルの問題はなるべく官僚主導でやらせ、官邸の扱う問題はコアに最小化することが賢明です。その場合も、いろいろな人の意見を聞かないで単純でわかりやすい原則を貫き、どの原則を選ぶかは有権者にゆだねればよい。

民主党の場合も自民党の場合も、その選択の基準は「大きな政府」か「小さな政府」かということしかないでしょう。原子力政策などの個別問題は、そのコロラリーにすぎない。小さな政府なら電力を全面自由化して市場でエネルギーのポートフォリオを決めればよいのです。