アメリカ「二番底」の原因 - 『余震(アフターショック)』

池田 信夫

余震(アフターショック) そして中間層がいなくなる
著者:ロバート・B・ライシュ
販売元:東洋経済新報社
(2011-07-15)
★★☆☆☆


アメリカでは債務危機がぎりぎりのところで回避されたのに、大幅な株安が始まった。なぜかと不思議に思うのは、私だけではないだろう。本書は、アメリカの不況が長期化する原因を2008年の金融危機の「余震」だという。それはラジャンが金融危機の一つの原因とした所得格差だ。大恐慌の再来は避けられたが、それを生み出した格差はさらに拡大した。

資本主義がグローバル化し、ITが発達すると、先進国には二種類の仕事しか残らない。一つは金融やソフトウェアなどの高度な技能によって高い所得を得る仕事、もう一つはコンビニの店員や介護士のような低賃金のサービス業だ。これは前著『暴走する資本主義』でも著者が指摘した傾向で、これ自体は止めようがない。

その結果、アメリカでは富の23%が上位1%の大富豪に集中する異常な格差が生まれ、中位の労働者の実質賃金は下がった。これと住宅バブルの崩壊による債務の返済があいまって経済が収縮し、過少消費が起きているのだ。過剰債務は日本と似ているが、所得格差が不況の原因になるのは、福祉の貧困なアメリカに特有の問題だ。

本書がその対策として推奨するのは、富裕層への増税や医療保険の整備などの伝統的な民主党の政策だが、負の所得税や教育バウチャーというフリードマンの提案した政策も含まれているのがおもしろい。ただ、不況の原因をもっぱら所得格差に求める分析はいささか単調で、物足りない。