電力不足と円高が、日本の製造業に重くのしかかっています。だから製造業の海外移転が進み、日本に産業空洞化が加速されると言われています。問題はここからです。だから日本の企業の海外移転に歯止めをかけようとするのか、海外移転は必然的な流れとしてそれに対応しようとするのかです。
この問題で、経済界からの発言をブログで批判したことがあります。電力不足が企業の海外移転が加速し、産業空洞化が起こるので、原発の再開を求めるという動きに対してでした。
節電でちょっと不名誉な実績の産業 –
そういった性急な原発再稼働が、国民や原発周辺地域の人たちからのコンセンサスが得られるのか、いやむしろかえって原発再稼働を困難にさせ、また企業と国民の間に溝をつくることにならないかと懸念したのです。
しかも、問題発言だと思ったのは、その発言をされた経営者の方の会社が、福島第一原発以前に掲げられていた中期計画に、海外投資、つまり製造拠点の海外展開に集中することが堂々と掲げられていたのです。つまり、電力不足かどうかにかかわらず、海外移転を進めることが経営方針だということでした。
決して、その企業の海外移転を非難しているのではありません。海外展開に思い切った舵を切ろうとしている中期計画のほうがむしろ正しいとさえ思います。
焦点は、ほんとうに日本の企業の製造拠点や開発拠点の海外移転を止めることができるのか、また海外移転を止めることが果たして望ましいことなのかです。
これまでも、国内製造業の海外現地生産比率は年々上昇してきたというのが現実です。1995年は8.1%でしたが、2010年には18%と過去最高を記録しています。もちろん円高も後押ししたとはいえ、海外移転は円高だけが原因ではありません。
賃金が安く潤沢な労働力を得られること、多くの途上国が税で優遇し、誘致をはかってきたこともあります。しかし、それだけではありません。むしろ生産コストの問題よりは、その需要地の市場を獲得することを目的とした現地化に流れは移ってきています。
旺盛な需要を取り込もうとすると、ひとつには現地でのニーズにそった製品づくり、あるいはカスタマイズが必要になってきます。そのためには、現地に開発機能をもたなければ困難です。また製造や開発の現地化を進め、現地での雇用をつくらなければ、その市場から受け容れらなくなってきます。
さて、これまでは製造拠点や開発拠点の海外移転を進めてきたのは大企業が中心でした。しかし、日本の企業にかかわらず、世界の大企業の製造拠点が途上国に移ってくると、そこに部品などの中間財を収める製造業の中小企業が製造拠点の顧客の近くに進出し、きめ細かい、またスピーディな対応を行わなければ結局は競争に敗れ、仕事を失ってしまいます。
日本のモノづくりの技術を持った中小企業の海外進出は、中小企業の今後を考えると必然的です。むしろ中小企業の海外進出が遅れたために、中小企業の疲弊が起こってきたと見ることができます。
もうひとつの問題ですが、海外移転による国内の製造業の空洞化で、雇用がさらに失われるという懸念があり、そのことがさまざまなところで言われています。しかし、製造業が雇用を支える時代はもう終わっているのです。
図録▽産業別就業者数の長期推移(サービス経済化) :
しかも、本当にこれまでの企業が海外生産比率を高めたから雇用が減ったのかどうかも定かではないのです。
日本の製造業発展のために、もし海外生産比率をさらに高めることが望ましいとすれば、円高や電力不足で海外移転が加速されるとすれば、なんら問題ではありません。
こういった点については通商白書2011が参考になるのでリンクを張っておきます。
通商白書2011(METI/経済産業省) :
日本が長期的な経済の停滞を経験してきたのは、産業構造が転換できなかったことが大きいと言われています。産業の新旧交代の遅れです。そうだとすると、日本の経済や雇用を促進するための焦点は異なったところにあるはずです。
円高、電力不足という生産制約になる現実が生じた現在こそ、本当はどうなのか、日本はどのように歩んでいくべきなのかの議論をしっかり行うチャンスではないでしょうか。産業空洞化は、もしかすると、日本の産業構造を変えていくチャンスを生み出すかもしれないのです。
ただただ円高、電力不足は輸出産業の海外移転を促進する、産業の空洞化を招き、雇用を失うというひとつの見方が、安易な固定観念になり、間違った選択肢をしてしまうことは避けたいものです。効果の期待できない為替介入などはその一例かもしれません。