話題の孫正義×堀義人トコトン討論の書き起こしを、遅ればせながら読んでみた。印象としては、孫さんがかなり現実的になったという感じだ。原発の代替エネルギーとして、彼が天然ガスのコンバインドサイクル(GTCC)を推奨したのには驚いた。
おっしゃる通り、孫さんのいう「原発ミニマム」は、小出力で高コストのメガソーラーでは実現できない。彼の「40円/kWhで太陽光電力を全量買い取りしても、10年後に電気代が1世帯で月200円上がるだけ」という話は、事実誤認である。彼の引用した経産省の試算は買い取り価格を「15~20円/kWh」としたものだ。
海江田経産相のいう「0.5円/kWh」という電気代の値上げ幅も、この20円/kWhを想定したもので、これではメガソーラーは赤字なので、太陽光だけは別枠になる。それでもソフトバンクの社内では「メガソーラーはもうからない」という反対論が強いらしく、孫さんがメガソーラーからガスタービンに舵を切ったのは賢明である。
彼のいうように老朽化した原発や石炭火力をGTCCに代えてゆくために必要なのは、再生可能エネルギー法ではなく電力の自由化である。この場合、発送電の分離だけではだめで、小口電力の自由化が不可欠だ。日本の電気料金は、小口の家庭用(50kW以下)を割高にして、その利益で大口の赤字を補填しているので、今のPPSのように大口だけに参入してももうからない。
25年前の通信自由化のときは、長距離電話が割高で市内電話が割安だったので、長距離だけに参入するクリームスキミングでもうけることができたが、電力の場合は逆に小口がもうかるのだ。本来はすべて自由化する予定だったのだが、電力会社が小口の自由化に抵抗している。これは発送電の分離より政治的には低い壁なので、まずここから着手してはどうだろうか。
ただ小口は固定費の大きい「ラスト・ワンマイル」なので、配電網などにコストがかかり、参入する業者もかなりの資本力を必要とする。それができる独立系の企業は、ソフトバンクぐらいしかない。電力業界の独立系業者は、ソフトバンクの参入を歓迎している。今までは東電の圧倒的な支配力のもとで、自由にものもいえない業界だったからだ。
電力自由化には、いろいろな問題がある。電圧や周波数が不安定になるとか、過少投資になって電力網が劣化するとかいうリスクはあるが、長期的には自由競争がよい結果をもたらすというのは、通信自由化の旗手だった孫さんには言うまでもないことだろう。
東電の賠償のために発電所を売却する話も出ているので、ソフトバンクがそれを買収すればPPSに参入できる。小口まで自由化して発送電を分離すれば、ソフトバンクが国家管理会社になった東電に勝つことは容易だろう。破綻処理した場合は、更生会社の東電を買収することも不可能ではない。スマートグリッドやPLC(電力線通信)などと合わせれば、彼の本業である情報革命とも一致すると思う。