送り火で風評も送ろう

池田 信夫


私の実家は、京都五山の「大文字」と妙法の「妙」の間にあります。自宅の庭から大文字が見え、毎年この送り火を見ると「夏が終わるなぁ」という感慨をもったものでした。しかし今年は、情けない出来事が起きてしまいました。


被災地の陸前高田市から人々の思いを書いた340本の松の薪が送られ、それを送り火で燃やす予定でしたが、「被災地の松を燃やすと放射性物質が飛散する」という抗議で、保存会はこの薪を断ることに決めたのです。

ところが、この薪が8日に現地で燃やされたあと、今度は「根拠のない不安を助長して風評被害を広げる」という抗議が被災地から寄せられ、陸前高田から新たに500本の薪(何も書いてない)を取り寄せて燃やすことが決まりました。

薪を燃やしても人体にまったく影響はない(それは専門家も鑑定した)のに、保存会が抗議に屈したのは、日本に充満する「風評」に負けたのでしょう。京都人は昔から合理主義で、権力や空気に屈しない伝統があっただけに残念です。

被災地に対する根拠のない風評は、原発事故そのものよりはるかに大きな不安を人々に与え、復興をさまたげています。これを機会に、死者の霊とともに風評もあの世に送り、もう放射能を誇大に騒ぐのをやめて冷静になってはどうでしょうか。

追記:京都市は12日、一転してこの500本の薪も燃やさないことを決定しました。これは被災地を傷つけ、送り火の伝統に汚点を残すものです。