入れ墨は著作物?

山田 肇

7月29日に東京地方裁判所は「入れ墨は著作物である」との判決を出した。東京新聞の記事には次のように書かれている

入れ墨が著作物にあたるかどうかが争われた訴訟の判決が29日、東京地裁であり、岡本岳裁判長は、思想が創作的に表現されている場合は著作物にあたると判断した。その上で、自分の体に彫られた入れ墨を彫師の氏名を表示せずに自身の自叙伝の表紙に使用した男性と出版社に対して、「著作者人格権を侵害した」として彫師に48万円支払うよう命じた。

さっそく判例検索システムで探し、判決を読んでみた。「当裁判所の判断」は「下絵の作成に際して構図の取り方や仏像の表情等に創意工夫を凝らし、輪郭線の筋彫りや描線の墨入れ、ぼかしの墨入れ等に際しても様々の道具を使用し、技法を凝らして入れ墨を施したことによるものと認められ、そこには原告の思想、感情が創作的に表現されていると評価することができる。したがって、本件入れ墨について、著作物性を肯定することができる。」ということだそうだ。


その上で、彫師の氏名を表示しないまま、入れ墨の画像を自叙伝に掲載した行為は、氏名表示権を侵害するものであり、画像で「陰影が反転し、セピア色の単色に変更されていること」は同一性保持権を侵害するものである、としている。

さっぱりわからないのは、「著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。」とする著作権法の目的に照らしての検討がなされた様子がないことだ。入れ墨を著作物として保護すると文化は発展するのだろうか。

折しも、神戸市は「須磨海岸を守り育てる条例」に基づいて、「指定場所以外のたばこの喫煙,ごみのぽい捨て,入れ墨等の露出」の禁止を内容とする、集中キャンペーンを実施している。条例で、入れ墨等を見せびらかしたり、粗野・乱暴な言動をすることによって、他の海岸利用者に不安を抱かせたり、怖がらせたりする行為を禁止したので、それを徹底させようというわけだ。

同様のルールがあるスポーツ施設なども多い。このような厳しい社会の眼を感じ、入れてしまった入れ墨の一部でも消すと、彫師の持っている同一性保持権を侵害することになる。あるところでこの話題を話していたら、「太っただけでも同一性保持権侵害となるかもしれないね」という指摘も受けた。

このような判決を下すのは、裁判官が六法全書の中しか見ていないからだ。著作権法関連では、まねきテレビ事件でもMYUTA事件でも、そんな近視眼的な判決がでている。それによって、日本の産業は足止めを食らっている

山田肇 - 東洋大学経済学部