松田さんの記事は、昔「上げ潮派」の人がよく言っていた話ですね。「デフレ脱却を先に行い『成長』が伴わない限り、財政健全化も、真の意味での復興もない」というが、そのデフレ脱却はどうやって実現するんでしょうか。まさか日銀がマネタリーベースを増やせば脱却できる、とかいう話じゃないでしょうね。
財政を経済と一体で考えなければならないというのは、小泉内閣で経済財政諮問会議ができたときの基本思想であり、それはもちろん正しいのですが、今の日本で財政を悪化させないで成長を実現することは非常にむずかしい。金融政策は手詰まりになってしまったので、残るのは小泉内閣のときと同じ構造改革しかありません。これは成長率を上げることができるが、一番むずかしい。政治家や官僚が既得権を失うことをいやがるからです。
だから問題は「デフレ脱却」なんかじゃない。マイナス1%程度のデフレは、予想に織り込まれているので経済には中立です。その証拠に、実質賃金も実質金利も下がっている。先週のブログ記事でも書いたように、デフレといわれている現象の大部分はグローバル化による相対価格の低下であり、財政・金融政策で防ぐことはできない。ただ金融的な側面もあります。藤沢数希さんも指摘するように、日本のデフレは
物価上昇率=(国内の)名目金利-(世界の)実質金利
というフィッシャー方程式でかなり説明できます。世界の実質長期金利は2~3%で推移し、均等化する傾向がありますが、日本の長期金利(≑資本収益率)は1%程度と低いため、フィッシャー方程式から物価上昇率がマイナスになるわけです。
つまり日本のデフレの貨幣的な要因は、資金需要が少ないために長期金利が低いことで、資金需要が少ないのは成長率が低いからです。池尾さんもいうように、自然利子率(均衡実質金利)は潜在成長率にほぼ等しくなるので、潜在成長率が世界平均より低い国には、つねにデフレ圧力がかかるのです。
だから「デフレ脱却を先に行って『成長』を実現する」という話は逆で、まず潜在成長率を上げないとデフレは止まらない。デフレは珍しい現象なので政治家は騒ぐが、成長率低下の結果にすぎない。「デフレ脱却」を政策目標にするのはナンセンスであり、それを掲げた議員連盟は経済政策を知らない議員の集まりです。