国債の債務不履行に関する制度的枠組みをどうするか

小黒 一正

急速に高齢化が進む日本。公的債務(対GDP)はいまや200%に迫る勢いである。拙著『2020年、日本が破綻する日』日経プレミアシリーズでも指摘するように、将来も市場で安定的な国債消化がなされるとは限らない。

その際、これから起こる可能性のある国債債務不履行との関係で、一橋大学経済研究所教授・北村行伸氏の「我が国の国債管理政策の現状と課題」(季刊 個人金融 2011春)の論考は、大変興味深い視点を提供する。それは、国債の債務不履行に関する制度的枠組みについての2つのアプローチである。


一つは、「約款アプローチ」である。

これは、国債の約款に債務不履行に陥ったときの処理方法をできる限り具体的に記載しておく方式である。例えば債券保有者の75%以上の同意があれば、それら債券の条件変更(=損失負担の交渉)を行うことができるという「集団行動条項(Collective Action Clauses)」を記載しておくという方式があるが、このアプローチはEUで開始する見込みである。

というのは、いまEUは「欧州金融安定ファシリティー(EFSF)」を一時的に設定し、ギリシャを中心とする財政危機に対応中であるが、EU委員会は昨年(2010年)、同基金をベースとして2013年7月から「欧州安定化メカニズム(EMS)」を常設することを合意した。

その際、一般にはあまり認識されていないが、2013年7月以降に新規発行されるユーロ債すべてに「集団行動条項」を適用することを合意しており、この条項を発動すると一部の債権者が反対しても債務再編が可能になる。

もう一つは、「制定法機構アプローチ」である。

これは、上記のような約款アプローチでは集団的な破綻処理や債権回収ができないとの認識に立ち、「破綻処理機構」を創設しようというものである。

この関係では、国際通貨基金(IMF)のアン・クルーガー筆頭副専務理事は、2001年の演説等で、アメリカ連邦破産法11条に類似する制度的枠組みをもつ「国家債務再構築メカニズム(Sovereign Debt Reconstructing Mechanism)」をIMFに設置することを提唱している。

以上の2つのアプローチは日本ではあまり議論されていないものであるが、公的債務(対GDP)が急増する日本でこそ、経済学者・財政学者・法学者を中心として、議論を深める余地があるテーマであろう。

(一橋大学経済研究所准教授 小黒一正)