もし産業空洞化が日常のライフスタイルに入り込むと

石川 貴善

バブル崩壊後の90年代には、よく経済専門誌では地方経済を中心に「××年後の動きをシミューレートする」といった内容が取り上げられていました。当時は話半分で信じられませんでしたが、現在を見ますと当たっているものが少なくありません。
高い法人税・円高・電力不足・市場縮小など、日本企業が海外脱出するニュースが相次いでいます。今まで経済記事の内容が、ライフスタイルに大きく影響しそうです。20××年をシミュレーションしてみますと・・・


※海外・史実を積み重ねた、仮想シミュレーションです。

20××年の日本の経済環境は?
1ドル50円。街には人通りが少なく高齢者が多い。働き手は公務員・インフラ系大企業・サービス業に限られ、失業率20%の中多くの働き盛りはアジアかカナダ・中南米に渡る。
日系人人口は1億4千万になったものの、国内人口は7千万にとどまり、2.5人に1人は高齢者。消費税は30%になり、年金支給開始年齢は70歳・また90歳以上は年金・保険料ともストップし、「長生きは自己責任」となったものの財政赤字は深刻なまま。
人口減少により、高度経済成長期に作った老朽化した社会インフラは維持できなくなり、多くは解体される。高速道路の橋梁崩落事故が起きたため、名神・東名・首都高速は解体され、新東名・第二名神があるものの常に渋滞。郊外のニュータウンは減築して一部の高層住宅はあるものの、多くは解体して更地のまま。

☆大企業:工場だけでなく、今まで日本語の壁で無いと言われていた本社機能も、国内市場の縮小により、シンガポールや北米に移転が進む。社員にとっては海外勤務で充実しているものの、待遇は海外現地法人の2~3割増のため生涯賃金で3-4割減少する見通し。生活費の折合い考えると、老後は日本に帰れそうもない。

☆中小企業:同じ地域・元請会社同士で共同進出したものの、現地の風習・商慣行などの違いで同化する会社と、日本に戻る場合で二極分化が。高齢化した経営者によっては廃業か会社ごと売却する場合も。

☆普通のサラリーマンは:ソフト開発・コールセンター・アフターサービス・テレアポなど、求人は多いものの中国のセンターで現地採用されるため、キャリア形成は現地社会でやっていく必要が。辞めて転職する中国人従業員が多い中で、日本人従業員は長く働いてくれると評判は良い。

☆老後:国内で大過なく定年退職した際には、老後は年金に税のかからないマレーシアに移住。語学の問題があるので、英語が使えるようになるため“六十の手習い”に。物価が安くても、孫に会いに娘がいる上海に行くなど移動距離がしんどい。現地の食べ物とコミュニティに慣れるのに時間がかかる。

☆医療:医療ツーリズムが大きく普及し、タイや日本が人気に。高度医療が受けられるものの、自由診療はとてつもなく費用がかかる。海外移住による食生活の変化と国民皆保険の崩壊により、平均寿命は男性68歳・女性72歳に。

☆学校:海外の日本人学校やインターナショナルスクール出身の場合、そのまま海外の日系企業や海外企業に。国内著名大学では社会階層によって色合いが変わり、親の職業や長男など社会に出てからの互助会的色合いが強くなる。
・東京大学→官僚・国内の医師・教員向け
・早稲田大学→政府統制機関のマスコミや、その他国内専門職向け
・慶応大学→国内に残る規制業種の企業と、その下請企業の社長子息の学校に。“社中協力”の福澤諭吉の教えにより完全全寮制となり、国内ネットワーク作りの拠点に。
・普通の大学は、大学の名称があっても“専門学校”に。

☆最も海外流出の激しい職業は?:国内民放キー局が2局になったため、映像制作会社は海外本社が主流に。日本人の映像制作能力が評価され、報道・バラエティ・情報番組など海外メディア登場が激増。個人としてもスチール・ビデオカメラマンの境目がなくなり、雑誌やWeb媒体の撮影も根拠をマニラかウラジオストックに置くように。
モデルのコストパフォーマンスは抜群でも、表情やポーズを理解してもらうのに時間と手間がかかる。日本へはクライアントの営業と打合せくらいで、出張経費がかかるため出版社の仮眠室で暮らす日々。

☆結婚生活:女性も婚活相手が将来不安で煮え切らない国内に見切りをつけ、上海かアメリカに渡るケースが続発。ロマンス小説の世界が現実になるものの、言葉・風習・価値観の違いは小説になかった・・・
日本人としてステータスは残っているものの、「日本人らしさ」として従順さが求められ、ストレスがたまりがちに。ハーグ条約が批准され国際離婚で子供を連れ帰る場合、中には逮捕や民事訴訟で巨額の損害賠償になるケースも。

☆現地生活:海外のあちこちに”△△銀座”や”リトルトーキョウ”ができるものの、中国やインドより現地人同士のつながりが弱く、特に日系企業同士で熾烈な値引合戦が頻発。街中で日系人同士による抗争や銃撃戦が起こることも。

※生活満足度は?
皮肉なことに“昭和的価値観”が払拭され成長神話がなくなり、また正社員と非正規雇用による生涯賃金差が大幅に縮小したことから、日常生活での生活満足度は国内・海外ともに大きく向上。江戸時代の“宵越しの金は持たない”文化が再び定着化。個としての活躍が増えても、国として相変わらずの「アジアのイタリア」と称される状況に。