東日本大震災・原子力災害からの本格的な復興予算として、2011年度(平成23年度)第3次補正予算案が国会に提出された。この復興関連支出の財源をめぐり、復興増税の議論が大々的に行われたせいか、復興増税がすぐに始まるという認識があるようだが、実は違う。増税と思いきや、大規模な財政出動が行われようとしているのだ。
復興予算の内容と、復興増税の時期をつぶさに見てみよう。政府が10月21日に決定した2011年度第3次補正予算案では、インフラの復旧や災害廃棄物処理などの東日本大震災関係経費が11兆7335億円計上されている(2011年度第1次補正予算において復興関連経費に活用した基礎年金国庫負担の財源を含む)。今年の台風などの災害復旧も含め、約12兆円が第3次補正予算案に計上されている。そして、その財源は基本的に復興債で賄うこととしている。増税による財源確保は一切ない。
何を隠そう、2011年度第3次補正予算は、増税せず、国債を増発して大規模な財政出動をしたものに他ならないのである。しかも、今後組まれるであろう2012年度本予算でも、復興関連経費は、復興増税はわずかにあれども、基本的には復興債で賄われる予定である。集中復興期間としたこの5年間で、復旧・復興対策規模は19兆円と見込んでおり、この財源は、最終的には(復興債償還時の)増税を後に行うものの、国債増発が先行する形で賄われることになっている。
デフレや円高のさなかの景気低迷時に、増税するのはけしからん、と「増税派」を批判していた人たちの主張が通った形である。この予算案が国会で通れば、まさに国債増発による大規模な財政出動が実行されるのである。
2011年度第3次補正予算案の内容を議論する際に、復興債の償還に合わせて増税で財源を賄う金額やどの税目を増税するかに注目が集まったために、巷間には「すわ増税」というイメージが広がったかもしれない。しかし、増税と言っても、2012年度に実施が予定されているのは、法人税(2014年度まで)だけである。しかも、この法人税「増税」は、いったん減税した上での「増税(付加税として課税)」なので、今年度から見れば相殺すると事実上の減税である(法人実効税率を約5%引き下げた後に約2.5%引き上げられる)。
結局、復興増税といっても、今のところ予定されている案によれば、前述の法人税の他に、2013年から2022年に所得税を、2014年6月から2019年5月に個人住民税を、2012年10月から2022年9月までたばこ税を増税することとしている。結局、実質的に増税になるのは、2013年の所得税からであり、しかもその規模は年に1兆円にも満たない。これは、とても「大増税」という規模ではない。2013年までには、前述の「財政出動」や民間の復興需要によって、少なくともこれらの要因で内需を押し上げているのだから、この程度の増税なら景気を大きく落ち込ませるほどのものとは言えない。むしろ、これらにより内需を刺激することによって国内での資金需要が高まることから円高を助長することさえありえる。この財政政策スタンスでは、緊縮財政による円安圧力を期待するのは無理である。2010年代半ばには、社会保障財源としての消費税増税が検討されているが、景況を見極めて実施時期を判断することとされているから、なおさら短期的な景気変動に気を使っている(筆者から見ると気を使い過ぎている)といってよい。
最後に、復興財源として、政府保有株の売却が検討されている。復興財源という臨時的な財源だから、民営化の方向性と整合的な形で政府保有株を売却することは積極的に活用してよい。ただ、政府保有株は、株式のネット取引のごとくワンクリックで売却できるというように簡単に売却できるものではない。売却するために必要に応じて法律を改正しなければならないし、株式を売却する会社(これまでは政府が関与していた事業)のビジネスモデルを明確に示し、企業価値がより高まるようにしなければ、高値で株式は売却できない。郵政事業、たばこ事業、空港運営などがそれに該当する。また、東京メトロの株式は、東京都が購入を希望しているが、できるだけ安値で買いたい東京都と厳しい交渉に臨まなければならない。上場していないだけに、公正な株価を決めるには十分な吟味が必要だ。
高値で売却できなければ、増税幅を圧縮することができない。「急いては事をし損じる」ということにならないよう、戦略的に政府保有株を売却する必要があろう。そうすることで、増税幅を圧縮しつつ、必要な増税できちんと財源を確保できよう。