財政破綻までの2つのステップ

井上 悦義

日本の財政危機が深刻化し、国債価格が変調を来たし始めた後、どのような道のりを辿っていくのだろうか。大きく分けて2ステップあるはずだ。

最初のステップは日本のギリシャ化である。(日本のギリシャ化と言うと、日本とギリシャの国の違い(経常収支が黒字国と赤字国、通貨発行権の有無など)をこと細かに並べて日本はギリシャとは違う!と剥きになって反論する方がいるが、これはあくまで例えであり、現在のギリシャのように大変な事態に陥ってしまうということである。)


ここで起きることは、国債価格の下落、円安、株安だ。この事態に慌てた政府は初めて本気で歳出削減、大増税に踏み切るに違いない。国債価格が下落(=金利が上昇)すれば、金融機関は多額の損失計上を余儀なくされ、金融危機が勃発する。そして税収が約40兆円しかないのにもかかわらず、長期金利1%台で利払い費が約10兆円の国の財政は金利の大幅な上昇には耐えられない。日本の財政は問題ないと市場に信任させないと、国債の買い手がいなくなり、金融危機、財政破綻となり、日本中が大混乱に陥ってしまう。

年金支給額の削減、医療・介護における公費負担率の削減、公務員給与の引き下げ、消費税・所得税の増税など、ありとあらゆる歳出削減や大増税策が採られるだろう。銀行も国債価格の大幅な下落により下がった自己資本比率を維持するために、貸し渋り、貸し剥がしに走り、多くの企業が倒産する。不景気に陥り、雇用調整助成金なども廃止あるいは大幅に削減されることで、失業率も大幅に向上するだろう。

そして、大半の国民にとっては対岸の火事であると信じていたはずの事態が日本で起きたことに慌てふためき、パニックに陥り、東日本大震災直後のようにモノの買いだめに走り、テレビは連日この問題を報じ、「危ない金融機関」という特集も組まれ、国債保有高が多い銀行では取り付け騒ぎ、生保では解約ラッシュが起きるようになるだろう。大幅な円安により購買力が落ちたため、食料品は高騰する。ガソリン代も急騰し、高速道路はガラガラだ。海外旅行も一部の人が行ける高嶺の花となる。そして、爪に火をともすような赤貧洗うが如き生活が始まる。

最初のうちは、勤勉で真面目な日本国民はこの現状を受け入れ、乗り切ろうとするだろう。しかし、いつか感じるだろう。この状態がいつまで続くのだと―――。

特に若者の不満は極限までに高まるはずだ。正社員の解雇が厳しい日本では、しわ寄せが若者に向かい、現在の欧米諸国と同様に若者の失業率は大幅に高まる。2人に1人は失業者という状況に陥る可能性も十分にあるだろう。「物心が付いた頃から存在し、頼んだ覚えもない借金」に苦しめられていることになるのだ。

例えば1990年代以降に生まれ、財政危機が深刻化したタイミングで社会人になろうとしていた若者の怒りは如何ほどだろうか。頼んでもいない借金による不景気で就職も出来なければ、まともな生活が出来ない。

僕自身も、日本の財政問題の深刻さに気付き、「60年償還ルール」を初めて知った時は、無茶苦茶腹が立った。これを立案し、採用した官僚や政治家を“ぶん殴りたい”と思った。日本の繁栄は未来からの仕送りで成り立っていると感じた。こんな滅茶苦茶なルールを採用するのであれば財政破綻するのは当たり前だと感じた。自称経済評論家が馬鹿げた理論を唱えるのにも腹が立つ。日本の論壇から早く消えてしまえば良いと思っている。

僕自身は1975年生まれで、選挙権を持ったのは1995年だから、1995年以降の借金は僕にも責任の一端はある。しかし、1990年代以降に生まれ、物心付いた時から世代間格差に苦しみ、頼んでもいない借金による不景気で就職も出来ない、まともな生活さえ出来ないのであれば、その怒りのレベルは比べ物にはならないだろう。そして、その怒りはいずれ爆発し、暴徒化する者も現れる。

行くも地獄、引くも地獄だが、自ら招いた事態でない、この悲惨な状況が半ば永遠に続くのであれば、一からやり直したい、すなわちハイパーインフレ(=コントロールの効かないインフレ)による借金の帳消しを国民が望むタイミングが来るのだ。所詮、追い込まれた末の歳出削減、大増税策はうまく行かないのだ。そして、政治も国民の説得をあきらめ、ついに2ステップ目の財政破綻に陥っていくのではないだろうか。

もちろんこの財政破綻は過酷な代償を伴う。際限のない日銀による国債の直接引き受けにより起きるハイパーインフレで、あなたの預金・保険などはその価値を一気に失う。50代以上の方の大半は老後の生活資金を失うだろう。年金、医療、介護も公費負担率が非常に高いから、これらも十分に機能しなくなって大混乱に陥り、生活困窮者が続出する。もちろん生活保護も期待できず、満足な食事さえ口に出来なくなり、餓死者さえ出るだろう。途方に暮れ、自殺する人も増える。

そのとき若者は相対的にマシだ。やり直す時間も立ち上がる力もある。損をするのは年老いた方々だ。逃げ切りなど出来やしなかったのだ。このおかしなルールを放置しておけば、いつか爆発するのは分かっていたはずなのに、放置しておいたツケが一気に来るのだ。自業自得だ。いくら政府に文句を言っても遅い。

何が言いたいのかよく分からなくなってきた。ただ、確かに言えることは、改革には一刻の猶予もないということだ。今ならまだ間に合う(と信じている)。日本がギリシャ化してからの改革では遅いということだ。

僕は財政破綻すれば良いと安易に言う意見は大嫌いだ。過酷な代償をどこまで理解して言っているか疑問だからだ。しかし、その痛み・苦しみをすべて想像できた上で、日本国民があえてその道を選択するのであれば、僕もまだ人生が長いと信じているから、歓迎するかもしれない。地獄のような財政破綻を。地獄の先に光が待つことを信じて。

井上 悦義(アゴラ執筆メンバー) 
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