スティーブ・ジョブズ I
著者:ウォルター・アイザックソン
販売元:講談社
(2011-10-25)
販売元:Amazon.co.jp
★★★★☆
スティーブ・ジョブズについての本は山ほどあるが、彼自身が40回以上もインタビューに応じた本書がその決定版となることは疑いない。著者はフランクリンやアインシュタインの伝記を書いた一流の伝記作家であり、そうした歴史上の人物に比肩する天才としてジョブズを描いている。彼の人生ほど劇的であれば話だけでも十分おもしろいだろうが、インタビューに頼らないでまわりの人々にも取材し、彼の人間像を客観的に描いている。
全体として印象的なのは、対抗文化の影響が強いことだ。若いときヒッピーの影響を受けたことはわかるが、それを50代まで持ち続けた人は少ない。マッキントッシュを開発したのはIBMという「ビッグブラザー」に対する反抗であり、iPodを開発したときも”Think different”という「他人と違うものをつくる」ことがモチベーションだった。こうした反抗精神が、彼の人生を貫くモチーフだ。
そういう時代背景と彼の独特な性格があいまって、彼の人生も企業経営も、よくも悪くも常識破りだった。ビジネスはともかく、私生児を認知しないで母親が生活保護で暮らしていたエピソードなどは、彼の性格に欠陥があったことをうかがわせる。著者は、こうした性格の背景には、生まれてすぐ養子に出された喪失感があったのではないかと推測しているが、ジョブズ自身はそれを肯定も否定もしていない。
前半は読むのが止まらないぐらいおもしろいが、後半iPodなどの事業が軌道に乗ってからの記述は細かい話が多い。彼の死が予想より早くて完成を急いだためと思われるが、訳本で2巻880ページは冗漫だ。むしろあまり多くないジョブズの言葉が印象的だ。たとえば彼はビル・ゲイツをこう評している:
ビルは自分を「製品タイプ」の人間に見せたがったけど、本当のところはそんなタイプじゃなかった。彼はビジネスマンなんだ。[・・・]彼は世界一の金持ちになったし、それが目的だったら達成できたわけだ。僕はそういう目的をもったことはないし、それに、なんだかんだ言ってもビルもそうだったんだろうと思う。(下巻p.426)
本書は伝記としてはよく書けているが、客観性を保つあまり、こうしたジョブズの肉声があまり聞こえてこない。もう1冊、「ジョブズの言葉」みたいな本を出してもいいのではないか。