政策仕分けで周波数オークションの早期導入が提言された。しかし、新聞記事の多くは「制度設計に時間がかかるため、爆発するケータイ需要に応えるのがむずかしくなった。」と報じた。朝日新聞の記事が典型である。
これに対して総務省は「オークション制度の導入には電波法の改正が必要で、時間を要する」と反発。仮に900メガヘルツ帯から始めるとすれば、来年2月の割り当てはできなくなるほか、費用負担も増す。スマートフォン(多機能携帯電話)の普及でトラフィック(データ通信量)が急増。パンク寸前の携帯電話会社からの反発は必至だ。
早期導入派は社会全体に迷惑をかける悪者と言わんばかりの書きぶりだが、これは事実だろうか。電波部が今年9月に公表した『周波数再編アクションプラン』を読むと、900/700MHzが実際に利用できるようになるのは長い先であることが分かる。
900MHz帯では、900-915を端末用、945-960を基地局用として利用することになっている。しかし、そのためには今、利用しているMCAとRFIDを移転させなければならない。政策仕分けで「引っ越し費用」が問題になったが、このことである。
『周波数再編アクションプラン』によれば、MCA(905-915)について「平成24年7月25日から開始できるよう、平成23年中に当該周波数帯における技術基準及び具体的な移行計画の策定や移行作業体制の構築など環境整備を行う。また、現行周波数帯の最終使用期限については、平成30(2018)年3月31日とする。」とされている。RFID(950-958)にもまったく同様の記述がある。このほか、パーソナル無線(903-905)と音声STL/TTL(958-960)の最終使用期限は2015 年11月30日になっている。
結局、900MHz帯で直ぐに利用できるのは、900-903と945-950だけ。残りは2015年ないし2018年まで居座り続けるのである。2018年にならないと完全には空かないのに、比較審査で早期に割り当てれば爆発する需要に応えられる、というのはどういうわけだろう。700MHz帯についても、『周波数再編アクションプラン』では、携帯電話事業の参入時期は2015年に設定されている。電波部は、自ら公表したばかりの『周波数再編アクションプラン』を隠蔽し、オークションの早期導入は社会的に無理があるとアピールしているのである。メディアもそれに乗せられている。困ったものだ。
11月14日に開かれたドコモXiのイベントで、山田隆持社長が次のように語ったそうだ。「オークションは4Gからと考えていた、トラフィックが急増しており、700/900MHz帯を事業者は早く使わせて欲しい。オークションとなると法制化など新たに準備せねばならず時間的には難しい。」
山田社長、安心してください。ドコモに割り当てられるとうわさされていた700MHz帯が利用できるようになるのは2015年。オークションを法制化しても十分に間に合うのである。
山田肇 - 東洋大学経済学部