日本は今、本当に多くの、そして深刻な問題に直面していると思う。政府が解決したり、解決へ至る道筋に頭を抱えている側で、解決を遥かに上回るペースで新たな問題が次々出て来る。
率直に言って、政府の機能不全を危惧すべきステージに至っていると思う。
それでは、日本が直面する問題とは何か?
何故解決に時間がかかってしまうのか?
問題を列挙すればきりがないが、重篤なものに絞れば、円高、TPP、エネルギー問題と、コインの裏表の関係にある環境問題、解決の為に社会保障費の削減と増税を必要とする債務問題、最後は大学生の就職問題といった所であろうか。
一方、問題解決に時間がかかるのは、諸問題の中身を分析した後、本来政治主導、トップダウンで包括的な解決に当るべき所を、個別の問題毎に役所に下ろし検討させているので縦割りの弊害が出てくる。詰まりは、他省庁と協議せず自己完結型で解決に当るので中々包括的な解決策は出てこない。
一方、役所に検討させると、OBの天下り組織の創設みたいな省益ありきの従来発想に自縄自縛となり、結果あるべき解決策とは程遠いものとなってしまう。
さて、妙案に至る為には先ず問題の中身を精査せねばならない。
円高に就いては以前の記事で詳しく説明した通り為替介入等では解決出来ない。後程説明するが、強い円を活用して投資を活発にすべきなのである。
脱線するが、この記事で併せ安易なEFSF債3億ユーロの購入決定を批判したが案の定、米格付け大手スタンダード・アンド・プアーズは引き下げ見直しを発表した。当然、債券は値下がりするであろう。
損失は、結局は国民の血税で穴埋めされる事になる。財務省は国民に増税を強く求めているが、その傍らで安易なEFSF債購入により税の無駄使いをしている。
安住財務大臣は増税議論以前にEFSF債購入に至った経緯であるとか、損失予定金額とかに就いての説明責任を果たすべきである。それで国民の理解を得る事が出来なければ増税を国民が納得する可能性は低いと思う。
本論に戻る。TPPの議論が迷走する理由はTPP加入の理由が曖昧であるからだと思う。又とない良い機会と捕え、国民に判り易く説明すべきである。
TPPの意味は、昨日の記事でも説明したが、日本が従来の通商ありきの貿易立国から投資ありきの投資国家への変貌を可能にしてくれる制度と理解している。
モノ(貿易)から金(所得収支)へ転換する事は確実である。従って、日本経済に就いて考える時も貿易から投資への意識転換が何より重要となる。
TPPを議論するにしても、関税が高い低い等余り意味のない事なのである。重要なのは投資関連の規則や法律を一元化する事。それから、紛争処理に就いてもである。
エネルギー問題とコインの裏表の関係にある環境問題を簡単に説明すれば、菅前首相が恣意的に浜岡原発を停止させた事により、他の原発の稼働も困難となり、結果海のものとも山のものとも判然としない、所謂、再生可能エネルギーを当てにする訳にも行かず、化石燃料依存に舵を切った事に依る、副作用をどうするかという事と理解して良い。
先ず、追加の化石燃料支出が発生し貿易収支が悪化した。今年は通年で赤字になる見込みである。
次いで、地政学的リスクを高める中東への依存を高めてしまった。市場(WTI、ニューヨーク原油先物市場)もこのリスクを織り込んでか10月に75$を切っていた原油価格がここに来て100$を超えている。
最後は環境への負荷増大でる。原発は二酸化炭素発生に無縁であるが、化石燃料は大量の二酸化炭素発生を伴う。欧州、発展途上国の対日期待は大きいだけに日本としても難しい舵取りを強いられる事になる。
債務問題解決に就いては、既に多くの議論がなされ解決に至る道筋も見えている。社会保障費の削減を増税とセットで行うのが唯一の解決策とされている。
問題は上記参考例として財務省の無駄使いを挙げたが、公務員の数も減らず、選挙公約の年収20%削減をやる気が全く見えない状況で、果たして国民のみに痛みを押し付ける事が出来るかどうかである。有権者が怒れば次回の選挙での落選を危惧する民主党議員の多くが寝返り、腰砕けになる展開を予想する。結論として、今の仕組みを維持しての財政再建は不可能というものである。
最後の、大学生の就職問題に就いても以前記事で説明した。
要約すれば、学生が内定を貰いたい企業の内定予定数と学生の数に大きな乖離があり、供給過剰と言う前提がある。次に、一流大学の学生はインターンシップやOB訪問を通じ早々に内定していく。
一方、一般の就活生は殆ど残っていない内定枠を目指し、WEBでのセミナー応募から始まり(直ぐに締め切られるのでずっとスマホ見ている必要がある)、手書きの履歴書の作成、送付そして面談とか企業が落とす為の手続きに忙殺される事になる。
本当に非人間的な話であるし、学生に取って時間とエネルギーの無駄以外の何物でもない。こういう状況を指を咥えて眺めている政府はどうかしている。
それではどうやってこれらの問題を一気に解決するかである。既に多くのヒントは書かれている。
回答は、日本を従来の貿易立国から投資立国に転換するのである。投資により海外で獲得した利益を日本に送金し、日本に残った人間はこれで食って行く。日本はある意味プロフィットセンターの地位を降り、コストセンターになる訳である。
肝心の点は比較優位の原則を徹底させ、決して日本を特別扱いすることなく、製造業は従業員含め原則海外に出て行き、新たに大きく効率的なサプライチェーンの構築を目指す事にある。
円高、TPPに就いての問題解決は明らかと思うので、敢えて説明をしない。
エネルギー、環境問題に就いて言えば、最大の消費者である製造業が海外に移転するので需要は急減する。当然二酸化炭素の発生も併せ劇的に減る。
経団連・米倉会長は住友化学の出身である。石油化学はナフサを原料とし、触媒を使った通常反応であれ、ラジカル反応であれ、基本、高温、高圧の状況で化学反応を制御し、これを繰り返し中間製品から最終製品に誘導する。エネルギー消費型産業の代表と思う。
従って、同じ一億円の製品と言ってもiPhone4S用の電子部品と石油化学製品とでは、製品製造に伴う二酸化炭素の発生量がまるで違う。石油化学に併せ、日本の環境対策を設定するのではなく、石油化学産業がベトナムやミャンマーに移転すべきなのである。大事な事はこの発想の転換と思う。
債務問題解決に就いては先ずこれ以上の国債を発行しない、詰まりはプライマリーバランスの達成を目指す事になる。これが出来るかどうかは、海外からの送金(所得収支)の額に併せてコストセンターである日本の運営をしていくと言う事に尽きる。
その為に重要なのは、二重行政の見直しも含めた公務員改革を中核とする抜本的行政改革の断行である。企業の大部分が海外移転してしまえば規制など不要となる。これは自動的に役所が不要になる事を意味する。
農水省は金科玉条の如く食料自給率を言うが、現役世代の多くが海外に出れば食料は基本余る。従って、農水省の必要性はなくなる。必要なセクションは他省庁に移管させ解体可能と思う。
年金、医療そして生活保護給付額等もプライマリーバランス達成を最重要優先課題として調整する事になる。
大阪の大胆な改革は先行指標となってくれると期待している。
最後は、大学生の就職問題である。先ず認識すべきは、大学への進学が、東大、東大に準じる大学を例外として極めてハイリスク、ローリターンと言う冷徹な現実である。
従って、こういう負担出来ないリスクを回避して、経済的余裕があれば、高卒後、アメリカ、イギリス、オーストラリア、或いはニュージーランドなどの英語圏の大学に留学しアジアで職を得るべきと思う。
経済的に余裕がなければ、フィリピンで英語を学びながら日系企業でアルバイトをし、生活費を稼ぐ様なやり方も一般的になる気がする。或いは、企業として大学の卒業証明書等何の意味もなく役に立つか、立たないかと言う価値観ならばアルバイト中に気に入って貰いそのまま就職という可能性もある。
転職するにしても、大学を卒業した事実よりも途中で能力、人物を見込まれ引き抜かれた経歴の方が高く評価される気がする。
今の体制を維持したままで、政治と官僚機構に期待しても根本問題の解決は余り期待出来ない。ならば、モノ(貿易)から金(所得収支)への転換を積極的に進め、国民の意識を転換し、日本人の活躍の場を国内ではなく、海外に求める事で日本が直面する諸問題を解決すべきと思う。
山口巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役