EU新基本条約に対する英国離反の暗示するもの

山口 巌

欧州連合(EU)首脳会議で、EU新基本条約に対して英国は離反する事を決定した。これを受けて、政権与党保守党と連立を組むニック・クレッグ副首相(自民党)がイギリスが孤立するとして厳しく批判している。


当然の事ながら、この発言に対してイギリス国内から大きな批判の声が上がっており、今回の英国離反の決定はイギリスの国論を二分している。

早晩、イギリスはEUを離脱する事になると思う。そして、その審判は国民投票で問われる事になり、保守党が勝てば連立を解消して保守党単独政権となりキャメロン首相は長期政権を確立する事になると予測する。

それでは今回の英国離反をどの様に理解すべきなのであろうか?

私は、そもそもイギリスと欧州の連携は無理があったと思う。同床異夢と言っても良い。イギリスが飽く迄EU繁栄の果実の分け前を期待しての参加とするならば、ドイツはある意味前のめりで、EU統合とその拡大こそが繁栄に繋がる道と理解している様に見受けられる。手段と目的の捉え方が真逆なのである。

今回、イギリスはEU新基本条約加盟により負担させられる事になる対IMFへの資金拠出の分担であるとか、金融取引税採用による、イギリスに取って金の卵を産むシティーの毀損と、EU離脱による損失を比較し、前者の損失が大きいと判断したのだと思う。

露骨に言ってしまえば、EUに留まる事のディメリットとメリットを冷徹に分析し、ディメリットの方が大きいと判断したのであり、市場よりも官僚の判断を優先するEUを見限ったのである。

私は、イギリス同様日本も遠くない将来、国論を二分する議論を体験する事になると思っている。

第一は、従来同様アメリカを戦略的パートナーとするのか、それとも中国に軸足を移すのかという究極の判断である。

自民党は日米同盟を安全保障の基軸とし、その上で中国を通商上の最重要相手国と位置付け一定の成果を収めた。一方、民主党はと言うと鳩山元首相は日本から見て、米中を等距離の関係にある三角関係との前提で、今後は東アジア共同体に基軸を置くと主張した。当然、これはアメリカの不信を招き普天間基地移転の迷走もあり、退陣を余儀なくされた。

その後の菅前首相、野田現首相は鳩山氏の不始末の尻拭きに汲々としているのみ、と言った所ではないだろうか?

アメリカと中国は太平洋を挟んで対峙する大国であり、アメリカは凋落し、中国は台頭している。中国は既に日本の貿易、輸出入共に最大の取引国であると共に、最大の貿易黒字の提供国である

中国成功の立役者、鄧小平は1978年の訪日時に、日本と中国が組めば何でもできると言う爆弾発言をしている。

中国が今世紀覇権を握る早道は、日本を陣営に取り込む事に他ならない。今後、硬軟取り混ぜての対日工作が加速すると思う。その結果、日本の与党、野党を問わず親中派と親米派に二分される事になると思う。

今一つの判断は、アメリカ、イギリスと連携し市場を最優先する政府、市場ありきの社会を理想とするのか、EU同様、市場よりも官僚の判断を是とし、政府によって市場の規制を強化する社会を目指すかである。

一昨日の記事で説明した通り、日本は間違いなく官僚至上、社会主義の方向に舵を切っていると思う。

パートナーにアメリカを選択し、一方、政治・社会は官僚至上、社会主義を選ぶような世界も驚く、究極の捻れ、荒業を日本ならやりかねないが、これが本当に今世紀の日本に取って正しい選択なのか、熟慮が必要である事は言うまでもない。

山口巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役

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