市民が電子行政の遅れに気付く悲しいきっかけ

山田 肇

知り合いの母親が亡くなった。死亡届の提出は葬儀社が代行したが、その後の様々な行政手続が面倒だったという。電子行政化の遅れが市民に負担をもたらしていることを指摘するために記事にしよう。

住民が死亡すると住民票は消し込まれ「住民票の除票」という書類が残る。これを請求しようとしても簡単には発行してくれない。住民票は親族間でしか請求できないので親族関係を証明する書類を提示しなければならず、親子関係がわかる戸籍謄本が必要になる。だから、母から自分(友人)が生まれたことを記載した戸籍を保管する自治体に最初に出向き、その後、母親が最後に住民登録していた自治体に出向かなければならない。

高齢者は後期高齢者医療制度によって医療サービスを受け、介護保険制度によって介護サービスを受ける。後期高齢者医療制度と介護保険制度は別々の課が担当で、住民票を担当する課とも別なので、それぞれの課に足を運ぶ必要がある。友人は「死亡から発生する一連の手続きなのだから一つの窓口で処理できないのか」と、わざと職員に質問した。「ご意見はもっともだが今の仕組みではできない」と返答されたという。


問題は年金だ。年金は自治体ではなく日本年金機構が扱っている。だから自治体の窓口では処理してくれない。最後の受給について精算し、以後の支払いを停止するためには、年金機構の窓口に出かけなければならない。しかし、その窓口では住民票の除票や手続きに来た人(友人)と母親の親族関係がわかる書類(戸籍謄本)が必要。だから、事前に必要書類を確認してから手続きに出かけないと二度手間、三度手間になる。

相続手続きもややこしい。ちゃんと相続人全員が合意しているかを証明する必要がある。預金を相続するためには金融機関に戸籍の全記録を見せる必要がある。そのためには、死亡した人の親族関係を、死亡した人の出生から死亡までのすべての記録を取り寄せて示さなければならない。出生から死亡までの戸籍記録の全部が求められるのである。

誕生した時に戸籍に記録され、婚姻によって他に戸籍を移し、死亡までその戸籍に記録されていた場合、一体何通の戸籍記録が必要か。「二通」と思うだろうが実態は違う。戸籍法が改正される都度、自治体は戸籍を全部書き直しているので、それぞれの戸籍(の除票)をさかのぼって入手する必要があり、それらを入手するためには、一通に付き750円程度の費用がかかる。国民が希望して戸籍を移動したのではなく、行政機関が法律改正に伴って戸籍を書き直しただけなのに発行手数料の支払いを求められる。

こうして、行政手続きのための時間的コストと金銭的コストがかさむ。真の電子行政が民間へのデータ提供を含めて実現していれば瞬時に済むのにも関わらず。人々の電子行政への関心は高いとは言えない。しかし、親族の死去に伴う行政手続といった身につまされる状況に直面して、人々は真の電子行政の遅れを感じるのである。

山田肇 - 東洋大学経済学部

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