3・11の東日本大震災では多くの企業や個人が、寄付などさまざまな支援活動に貢献してきた。それらは十分とはいえないが、東北は被災地の方々の自助努力によりおどろくほどはやく復興を果たしている。筆者も、今年の10月に出版した「日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門」の印税の一部を復興支援に当てることを約束していた。今回は筆者による包括的な支援活動の一環として、会社の有給休暇を取り、福島県経済への支援活動を行った。詳細は別の機会にレポートするが、ここではその一部を紹介する。
拙著にも書いたが、筆者は官僚組織による財政政策には疑問を抱いている。官僚組織による恣意的な財政支援はレントシーキングを引き起こし、必ずしも持続的な経済の改善にはつながらない。そこでマーケット・メカニズムをもっと活用した、ミクロスコピックなアプローチによる財政支援が必要になってくる。筆者が選んだ方法は、自らが福島県に赴き、ひとりの経済主体として福島県経済に直接はたらきかけるボトムアップ・アプローチである。さらに、筆者が福島県で購入する財やサービスは、ケインズの乗数理論を通して、波状的に経済を刺激するはずである。
今回、筆者が最初に訪れたのは「アクアマリンふくしま」である。上野駅で早朝のスーパーひたちに飛び乗り、2時間ほどで泉駅に到着した。アクアマリンふくしまは泉駅からタクシーで10分ほどのところにある。3・11の震災では津波により大きな被害を受けたのだが、筆者が訪れた時には、ほぼ完全に復活していた。関係者の努力には頭が下がる思いだ。この水族館はモダンな建物で、館内はコンクリート打ちっぱなしを基調とするアーティスティックな造りになっている。筆者は、実はちょっとした水族館マニアなのだが、ここは規模こそそれほど大きくはないが、福島県内の生態を再現した淡水魚の水槽や、福島県沖の黒潮と親潮がぶつかり合う海域を再現したサケやマグロの群遊水槽など、非常にレベルが高かった。カフェなどのデザインも非常によかった。福島県内の他の観光スポットからは少し遠いのだが、新幹線ではなく、スーパーひたちで福島県に入り、最初にアクアマリンふくしまを訪れるルートも、なかなかいいのではないか。
併設される「蛇の目ビーチ」では、磯遊びができる。津波で大きな被害を受けたが、すでに完全復活している。(筆者撮影)
アクアマリンふくしまの後は、いわき駅までタクシーで行き、電車で会津若松に移動した。会津若松でお約束の喜多方ラーメンを食べた後、酒蔵の見学に行った。会津若松ではこのような見学できる酒蔵が多数あるようだ。下の写真は筆者が訪れた大和川酒造である。
この蔵では、日本酒を無料で利き酒できた(一部の高価な大吟醸酒は有料)。筆者は、昼間っからかなりの量の日本酒を飲むことになってしまった。これも復興支援の一環である。どれもおどろくほど美味しかった。筆者は、気に入った酒を買い込み、ビジネスパートナーや共同研究者に宅急便で送ってもらった。
利き酒の後は、同じく会津若松の温泉旅館にチェックインした。ここでは最高級の福島県産黒毛和牛のステーキを堪能した。その他にもアワビやイセエビなど、県の内外から取り寄せた最高級の食材を筆者は大いに楽しんだ。
温泉旅館で最高級の福島県産黒毛和牛のステーキを食す。(筆者撮影)
温泉には夜と朝の両方に入り、筆者は次の日のスケジュールに備えた。さて、この続きはまた別の機会に譲るとして、筆者が特に印象的だったのは、福島県では、みなふつうの日常生活をいつもどおり送っているということだった。ちょっとちがったことといえば、タクシーの運転手が原発事故で観光客が減ったとぼやいていたことぐらいで、福島県の様子でなんら特別なものは感じなかった。やはり風評被害で観光客が減ったのは事実のようで、筆者が訪れた観光スポットも人がまばらだった。おかげで利き酒も温泉も、筆者は極めて快適だった。福島県民は、原発事故を非常に冷静に受け止めているようだ。