時代の潮目が変わってきた

大西 宏

今年を振り返ると、時代の大きな変化の流れが、さまざまな現象として顕在化し、政治や企業経営にも大きな影響をもたらした一年だったと感じます。
オリンパス問題も経営統治の問題だけでなく、自らの強みを生かし広げる経営ではなく、ひたすら無原則に企業規模を求めた経営の失敗という側面も浮き彫りにしたように感じます。経営不在の経営の怖さを思い知らせた出来事でした、情報家電各社も、かつては総合と規模を追いかける経営を行なってきましたが、今やそれが仇になり、グローバル市場のなかで発揮できる強みを失ってしまいました。そして、極めて厳しい経営状況を迎えるに至っています。


そういった状況を見るにつけ、日本に必要なのは現状の延長線上に描く成長戦略のシナリオではなく、まずは古い常識や発想、時代に合わなくなったさまざまなしくみからの決別であり、来年は、まずは現実の変化を見据えた大きなパラダイムシフトができるかどうかで明暗が別れてくる一年となるように感じます。

それはビジネスの世界の話だけではありません。政治も官僚システムも古くなって来ました。永田町で繰り広げるゲームには国民は飽き飽きしています。統治機構として時代に適応できなくなってしまった官僚組織を変革することもできません。大阪のダブル選挙は、そういった古い行政の枠組みやしくみを変えようとする維新の会と、古い枠組みやしくみが既得権益となっている人たちとのせめぎあいでした。既存政党も、官僚も地方分権の旗印だけは掲げても、古い途上国型の遅れた中央集権のしくみで進めようとするので遅々として進みません。住民はそれにノーをつきつけたのです。

ネットを中心に小さなメディアがいくつも生まれてきています。このアゴラやブロゴスのようにネット論壇と言われるメディアも登場してきました。まだまだ社会的な影響力が大きいとは言えませんが、それでもマスメディアの報道の信頼性を揺るがしはじめているように感じます、

中堅企業の経営者の方々の勉強会での講演で、オリンパス問題で起こった日本のメディア問題をお話させていただいたのですが、驚いたことにその点がもっとも共感されたのです。それほど潜在的にマスコミへの不信感があるということでしょうか。

またネットの世界も変化し始めています、多くの人たちが実名で情報発信をするようになってきました。フェイスブックの普及が、それまでは匿名やニックネームが主流だったインターネット・メディアをさらに変えてきているように感じます。これは実感することですが、ネットの世界もリアルな世界と地続きになってきているのです。

放送局や出版業界も変化に対する対応に後れをとっています。テレビ放送は、ライフスタイルの多様化に合わせようとすると、オンデマンド放送を中心にしていかなければ衰退するばかりですが、その動きが鈍く、また出版業界も紙から抜け出すのに手間取っています。そこに新たなビジネスチャンスが見えているにもかかわらずです。

しかしもっとも日本が抜け出さないといけないのは「ものづくり」神話からの脱却です。「ものづくり」という発想は、消費や利用する側の視点が抜けてしまっています。消費や利用する側の視点から見れば、「ものづくり」は一要素に過ぎず、供給側からは価値あるものや価値あるサービスを提供してもらいたいのです。つまり「価値づくり」でないと意味がないのです。
グローバルな競争でも、もはや「ものづくり」だけでは追い上げてくる途上国には勝てません。「価値づくり」のための多層的な「知恵」こそが競争力になってきます。とくに日本は高い文化が高度に蓄積されており、それも価値として生かせるのではないかと感じています。本当の日本の強みとはなにかをもういちど問うなかからきっと新しい発想も生まれてくると思います。知恵の社会にむけた転換こそ来年は期待したいものです。