市場が選ぶ独裁官

池田 信夫

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今月の『文藝春秋』に、塩野七生氏がおもしろいエッセイを書いている。イタリアの首相が経済学者モンティに代わり、政治家なしで経済の専門家で固めた内閣ができた。イタリアは歴史上、いろいろな統治形態を実験してきたが、これは古代ローマの独裁官(ディクタトル)のようなものだという。


執政官(コンスル)はローマ市民の選挙で選ばれたが、2人の執政官が拒否権をもっているため、どちらかが拒否すると何も決まらない。「ねじれ国会」みたいなものだ。こういうとき、執政官が独裁官を任命する。任期は6ヶ月で、彼の政策には誰も拒否権を行使できない。これは与野党が「大連立」してモンティを選んだのに似ている。彼の任期も、来年のベルルスコーニの残りの任期までということだそうだ。いわばイタリア国民に代わって、「市場」が独裁官を選んだのである。

塩野氏もいうように、イタリア経済が最近、急に悪くなったわけではない。ギリシャ国債を空売りして十分稼いだ「市場」が、イタリアを次の標的にしただけである。彼らにとって重要なのはファンダメンタルズではなく、売りやすい「空気」だから、その次に日本が標的になってもおかしくない。特にヘッジファンドがねらいやすいCDS市場で、スプレッドが154ベーシスポイント(1.54%)と史上最高水準になっているのが不気味だ。ちなみにイタリアは516、ギリシャは7436ベーシスポイントである。

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10月にギリシャがデフォルトするというニュースが広がったときも、史上最高になった。次は日本だという「空気」を醸成する材料は、民主党政権のバラマキ予算などいくらでもある。CDSに引っ張られて長期金利が上昇し始めると、邦銀は金利が1%上がると9兆円の評価損が出るハイリスク運用だから、金融危機はイタリアよりはるかに深刻になるだろう。

モンティ内閣の評判は、あまり芳しくない。打ち出す政策が増税や年金減額などの不人気な政策ばかりだからで、大連立が崩れたら終わりだ。しかし年金支給開始年齢を3年引き上げることさえできなかった日本の民主党に比べれば、ずっとましだ。

6月にも解散・総選挙という噂があるが、総選挙で自民・公明が過半数になっても、参議院がねじれるので事態はほとんど前進しない。大連立で経済学者を「独裁官」に選ぶ選択肢はあるのではないか。