【GEPR】低線量被曝の健康への影響は観察されない—原爆被害者、原発労働者、自然放射能高線量地域の調査から

アゴラ編集部

アゴラ研究所の運営するエネルギー研究機関GEPRは、現在、国民の関心を集めている低線量被曝の問題についての情報を集めて、市民に提供している。現在の東日本では、原発事故以来の放射線の被曝量が問題になっている。

福島市内では、子ども・妊婦の1ヶ月間(11年9月調査) の追加的な外部被ばく線量は 0.1 ミリシーベルト以下だった。また食品などを通じて被曝する量は年間 0.1 ミリシー ベルト程度(中央値:もっとも多い数字)にとどまる見込みだ。[1]

そのために低線量被曝の健康被害を検討することが必要になる。今回は、日本の原爆、原発労働者、高線量地域の健康への影響を紹介する。

国際的な合意に基づく科学的知見によれば、放射線による発がんリスクの 増加は、100 ミリシーベルト以下の低線量被ばくでは、他の要因による発が んの影響によって隠れてしまうほど小さい。また他の疾患への影響もほぼない。

福島と東日本の放射能による健康被害の可能性が極小であることを、読者の皆さんは認識いただきたい。

[1]内閣府「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ報告書」2011、P13-16 


1・低線量被曝を受けた原爆の被害者について

広島、長崎の被爆者の医療調査は、各国の医療、放射能対策の政策に利用されている。これは50年にわたり約28万人の調査を行った。ここまで大規模な放射線についての医療調査は類例がない。

オックスフォード大学名誉教授のW・アリソン氏の著書「放射能と理性」[2]、また放射線影響研究所(広島市)の論文[3]を参考に、原爆の生存者の間では低線量の被曝による健康被害がほぼ観察されていないという事実を紹介する。

■調査の背景
放射線衛生研究所の調査によって、次のような事実が把握されている。原爆が投下されたときに、広島と長崎の人口は合計42万9000人だった。熱と放射線の影響で、即座に10万3000人以上が死亡した。爆発直後の情報は欠落が多いが、1950年以降は生存者28万3000人の医療記録が存在している。

記録で判明した人のうち1950年から2000年までにがんで亡くなったのは原爆投下時の全人口比7.9%、がん死亡者の中で放射線由来のがんで亡くなったと推定される人は0.4%とされている。これは、以前に考えられていたものよりも、かなり低い割合だ。RERFは約8万7000人の被曝量を推定している。行動データ、その後の検査などから、推計した。

またRERFはLNT仮説と被曝しなかった日本人の死亡データを参考に放射線の被爆線量による、白血病、固形がんの発症予測も行っている。LNT仮説(しきい値なし直線(Linear No Threshold:LNT)仮説)とは、「放射線はたとえ僅かな線量であっても有害であり、がんにかかりやすくなる度合いは、浴びた放射線量に比例して高くなる」というものだ。

■被爆者の調査結果

図の1と2[図へのリンク(ページ下部)]は原爆生存者のうち、1950年から2000年までに白血病とがんで死亡した人の数だ。白血病では200ミリシーベルト(mSv)、がんでは100mSv以上で死亡者数は予想値よりも実際の数の方が多い。それ以下の水準の被曝では放射線の増加による健康被害は観察できない。

この結果を低線量被曝における健康被害の可能性が少ないこと、被曝のしきい値(それを境にしてある現象が増える数値)は100mSv程度と推定されることの参考情報として、各国の政策決定者、医療関係者は受け止めている。またこの結果は、LNT仮説が低線量被曝で成立しない例証としても、取り上げられている。

福島第一原発事故では、それによって一般市民が100mSv以上の被曝を受けた報告はない。被爆者の情報から考えると、この事故による健康被害の可能性は少ない。

[2]ウェイド・アリソン「放射能と理性-なぜ100ミリシーベルトなのか」徳間書店、2011年 
[3]Dale L. Preston, et al. ’Effect of Recent Changes in Atomic Bomb Survivor Dosimetry on Cancer Mortality Risk Estimates’ RADIATION RESEARCH 162, 377–389, 2004. 

2・原発労働者の健康について

財団法人放射線衛生協会(東京)は、「原子力発電施設等 放射線業務従事者等に係る疫学的調査 (第IV期調査 平成17年度~平成21年度)」2010年を行っている。

この報告書は2005年から2009年に20万3904人に調査をし、1人当たりの平均累積線量は 13.3mSvだった。この対象者に放射線による健康被害は観察されていない。

3・世界の自然放射能の高線量である地域の健康について

公益財団法人体質研究会(京都)は「高自然放射線地域住民の健康調査」を公開している。

世界には自然高線量放射線の放射線地域がある。年間照射量ではラムサール(イラン)の平均10.2mSv、最高260mSv、ガラパリ(ブラジル)平均5.5mSv、最高35mSv、ケララ(インド)平均3.8 mSv、最高35mSvなどだ。ちなみに日本は0.46mSv、最高1.26mSv。これらの地域で放射線による健康被害は観察されていない。

以上の研究の詳細な解説はエネルギー研究機関GEPRのサイトで閲覧できる。