システム業界の詐欺的行為 --- 生島 勘富

アゴラ編集部

私は大阪市民で橋下大阪市長の改革に非常に興味を持っています。その橋下市長に触発されて「自身の業界でも改革できないか」という想いで投稿させて頂きました。

システム業界は2000年問題という大変な詐欺行為を行ってしまいましたが、それに勝るとも劣らない詐欺行為を続けています。先日、多額の予算と期間を掛けてきた特許システムが開発中止になったのは、その象徴的な事件です。そんな詐欺的なシステム屋が存在し続けられるのは、詐欺的システム屋にお金を払ってしまうお客様が大勢いることも、重要な原因の一つです。

そこで一般の人にも分かるように、どうやったら詐欺的システム屋を見破ることができるのかご説明させて頂きます。


■詐欺的システム屋の見分け方

以下の問題を、あなたがご利用中のシステムの担当技術者、できれば設計者に解いて貰って下さい。制限時間は10~15分で良いと思います。

【問題】h16_spring.pdf

実はこの問題は、初級システムアドミニストレータという資格試験に出た問題を選択式から記述式に直しただけのものです。もし、これが正解できないようであれば詐欺師に近いと断言して良い。というのも、初級システムアドミニストレータという資格は主にユーザ部門の一員として1年程度システムを利活用して実務をこなしたレベルとされています。利用者側の資格として規定されているため、就職氷河期の学生達に「IT系の職業に就かなくても取っておいた方が良い基礎的な資格」と評価され大変な人気を博しました。結果として、小中学生までを含めた通算52万人もの合格者がいらっしゃいます。

その事実から考えれば、現役の技術者がそのレベルにすらないとなれば『詐欺師』というのは決して大げさな表現とは言えないでしょう。

しかし、残念なことに実際に「できない技術者」は大勢存在します。システム業界はゼネコンと同じ構造で、そのヒエラルキーの上位に行けば行くほど「できない技術者」の割合は高まり、最上位に位置する企業では6~8割の技術者ができないでしょう。プロジェクトによっては全滅も珍しくはないはずです。

システム業界には「ヒエラルキーの上位に位置すれば『技術は要らない』」という迷信があり、それを本気で信じている技術者、システム会社が多く存在するのです。

■右折のできないタクシードライバー

この問題ができないということは、業界として「ユーザといえども習得すべき」としてきた技術レベルに到達していない技術者が、設計を行い、開発を行ってきた、今後も行おうとしている、ということの証明です。結果として、開発にとてつもなく時間が掛かり(つまり、開発費が高額になり)、クリックしたら何十秒も掛かってしまうというシステムになります。

私はそういった遅いシステムを直す仕事を数多くやってきましたが、一番ひどい例では、クリックして2時間掛かっていたプログラムが2秒になりました。元の遅いプログラムの開発には2ヶ月も要し2ヶ月分の開発費を支払ったそうですが、プログラムのほとんどを書き直しても修正時間は1時間も掛かりませんでした。つまり、最初からまともに作っていたら、2秒で結果を出せるプログラムが、打合せを含めても1日も掛からずに完成できていたわけです。

プログラムを修正すれば平均で処理時間が20倍ぐらい改善することが多く、そういう非効率なプログラムを開発する技術者を、私は「右折のできないタクシードライバー」と呼んでいます。

馬鹿らしい例ですが少し想像してみて下さい。もし、右折ができなければとんでもない遠回りをしなければならないことも、その結果袋小路に入り込んで身動きが取れなくなることも想像できるでしょう。馬鹿らしい例としましたが、右折しないルートを通ったとしても20倍の時間が掛かることはほとんどないですが、システム業界ではもっとひどいことが行われているわけです。お恥ずかしい話ですが、実際に、特許システムのように袋小路に入って完成できないということも珍しくありません。

■特許システムの開発中止

特許システムが55億円の予算で、5年も掛けていたプロジェクトが中止されることになりました。私はそのシステムについて内容はよく知りませんが、噂では上記のような技術はあまり使わないプロジェクトだったようです。

しかし、特定の技術スキルのあるなしの問題ではありません。

「『技術がなくても良い』と考える技術者、システム会社が開発を行う」ということが根本的な原因です。

会社の看板や規模、まして、見積価格のみで選べば、右折ができない技術者ばかりの会社を選んでしまいます。しかし、上の様な問題であれば簡単にチェックを行うことが可能です。是非、詐欺的システム屋をのさばらせないためにも、詐欺的な被害に遭わないためにも、お客様の方で技術者のスキルをチェックして頂ければと願います。

生島 勘富(イクシマ サダヨシ)
株式会社ジーワンシステム 代表取締役