メカデジで行こう

石田 雅彦

日本の「モノ作り系企業」が軒並み赤字決算、ということで話題なんだが、人材活用できずに赤字タレ流しのR&D部門などもヤリダマに上げられ、さらに大きな問題になりつつあります。これが、日本の「モノ作り」の限界、と言う人も多い。

確かに日本の製造業は、アジア諸国に追い上げられて青息吐息です。せっかく新たな製品を開発してもアジアの競合国に真似され、瞬く間に価格競争に巻き込まれてしまう。製品開発のカタチも変わりつつあります。例えば、振興ベンチャーが資金調達できれば、ファブレス、アセンブリで激安な液晶テレビなんかを作って短期的な勝負に出て一儲けすることも可能になっている。大変だなあ、と思うわけです。


日本の「モノ作り系企業」の業績が悪くなったことには、様々な理由が考えられます。その中で、多くの製造分野でデジタル化が進み、製品がデジタル化して日本の「モノ作り」のアドバンテージが低下していることも大きい。デジタル化は消費者に大きな恩恵を与えているわけなんだが、作って売るほうとしては誰でも作れるのでライバルが出現しやすい、というわけです。

かつて、VHSやベータなどの家庭用カセットビデオテープレコーダーで日本は、極薄のテープを高速回転する円筒状のヘッドへ微妙な角度で巻き付ける、という「神業」で世界市場を制覇しました。日本の自動車メーカーは、後発国には真似できない燃費のいい高性能エンジンを開発し、手頃な値段の大衆車を大量に作って世界で売ってきた。また、オリンピックなどの世界的なスポーツイベントを写真報道するカメラマンの使用機材は、ほぼキヤノンやニコンなどの日本製一眼レフ。あの望遠レンズの砲列は壮観です。

それがCDやDVD、さらにMP3などのデジタル化によって、製品デザインを外注して部品調達さえできれば世界のどこの企業でも製品を作ることが可能なっている。自動車にしてもこれからはEVになり、モーターと電池、シャシーを合体させれば、内燃機関に対する高い技術的なノウハウがなくてもクルマを作ることができるようになるでしょう。カメラにいたっては、ほとんどが安価なデジカメになり、ミラーレス一眼などという不思議な言葉まで出る始末。デジカメの分野でも日本の優位は危うい、と言わざるを得ません。

日本の「モノ作り」系大手企業の技術的な空洞化は、こうしたデジタル化もあって今では深刻なものになりつつある。また、外資の参入や株主の権限強化により、短期的に利益を上げることを求められ、効果が見えず金のかかる基礎研究やR&Dが削られ、部門のアウトソーシングが進んできた、という背景もあるかもしれません。

しかし、AppleやAmazon、Google、facebookといった米国発「インフラ系」の囲い込み企業がベンチャー的に日本から出てくるか、と言えばなかなか難しい。もちろん、日本発のこうした企業を育てることも大事なんだろうが、今すぐどうこう、ということは期待できないわけです。

じゃどすんの、と言われてちょっと考えてみると、ビデオ機器にしてもクルマにしてもカメラにしても、日本の「モノ作り」企業がアドバンテージを誇ってきたのは、メカニカルな機構についてです。正確無比の工作で作られた緻密な部品を組み合わせて一つの製品を開発する、というのは他国に真似できない日本企業の特徴でもある。メカニカルな機構がデジタルに取って代わられたからこそ、こうした製品を作ってきた日本企業の業績が悪くなった、とも言えます。

というわけで、こうしたらどうでしょう。デジタルの良さを活かしつつ、日本のお家芸であるメカニカルな機構がなければ作れない製品市場を新たに創り出す。そうだ「メカデジで行こう」。これが短期的に日本の「モノ作り」企業が目指すべき方向なんじゃないか、とこう考えるわけです。

例えば、ロボット技術を駆使してクルマを進化させる、なんてのはどうでしょうか。メカニカルに重心移動させて制動距離を飛躍的に短くしたり、クルマの挙動を制御する。さらに言えば、こうした「メカデジ」の規格そのものを作って囲い込んでいけば、それが日本独自の「インフラ系」産業になるかもしれません。そのためには、日本の「モノ作り」、とりわけメカニカルな機構を創造する技術力を再構築しなければならない、と思います。

石田 雅彦