「11年経常黒字、15年ぶり10兆円割れ」というニュースがありました。(参:財務省)このニュース記事でもエネルギーについて言及していますが,私もエネルギー問題が最も重要だと考えます。
経常収支黒字の縮小の原因は貿易収支の赤字化にあります。それを聞くと日本の輸出産業の低迷を想像する人が多いと思います。けれども実は異なる側面があります。場合によっては,現在の産業構造でも史上最大の経常黒字になっていた可能性すらあります。
輸出と輸入で日本のニュースで話題になるのは円でみた値です。しかし,実際にはドル建て取引きが多いので,円の値の貿易額は 「 数量 × ドル価格 × 為替レート 」 で計算されるものです。
おそらく,黒字減少というニュースに対して想像しがちなのは,このうちで数量の減少だと思います。そして,円高による競争力の低下もイメージすると思います。
ところが,次の2つの図でドル建て取引きの輸出入と数量指数をみるとそのイメージと実際が異なることがわかります。(統計の出所:JETRO「ドル建て貿易概況」)
まず,輸出について,円建て取引きは為替の影響を受けないのでドル建てだけの輸出額をみます。2009年に落ち込んでいますが,2008年と比べて2011年では増大しています。一方で,数量をみると(注:ドル建て以外も含んでいますがほとんどドル)輸出は若干の減少です。
輸出量は減ったのですが,ドルの輸出額で見ると案外健闘しているのです。ドル高に対して品質等で勝負できている部分もあると思われます。
しかし,問題は輸入です。輸入は2009年を除くと2005年からその数量はほぼ変化していません。ところが,ドル建ての輸入額は1.6倍に膨れあがっています。これは,円高で海外のモノが安く買えるようになっているのにもかかわらず,下の図のように原油などのエネルギー輸入価格がそれを上回って上昇したためです。
今回の貿易収支の赤字化においては輸入額の増大がより重要で,それはエネルギー価格の上昇でほとんど説明されます。どちらにしても欧米の日本の輸出財への需要はあまり回復していないので,もし円高になっていなければ,貿易収支はむしろさらに赤字が大きかったかもしれません。
一方で,エネルギー価格が2005年の水準であったならば,円高であっても過去最大の黒字であった可能性もあります。
したがって,貿易を重視するなら,為替に目を奪われがちですが,重要なのはエネルーギー政策ではないでしょうか。これまでの経済政策はこのポイントから大きくずれていたと思います。中長期的な対策も必要なので,今後の政策ではぜひこの点に着目してもらいたいです。
岡山大学経済学部・准教授
釣雅雄(つりまさお)