日本は産油国に取って都合の良い「貢つぐ君」で良いのか?

山口 巌

釣先生のアゴラ記事を拝読。飽く迄私の勝手な解釈であるが、日本の製造業が頑張って輸出しても、儲けの殆どを産油国に持って行かれる経済構造になっていると理解した。


問題は、何時までも日本は産油国に取って都合の良い「貢つぐ君」で良いのか?と言う事だと思う。

良い筈がない!

どうやって、原油価格の高騰に影響されない経済システムに日本経済の仕組みを改修するのか、或いは原油価格高騰で利益を出せるようにするのか、一度きちんと考えるべきである

先ず、一番手っ取り早いのは現在停止中の原発を順次再稼働させる事である。この記事で説明した通り、少なくとも1.3兆円の化石燃料の輸入が省ける。

本格的な対策は、エネルギー資源に限って言えば「石油」から「石油以外」に順次転換する事である。これは、消去法で候補を消し込んで行けば良いと思う。

「原発から再生可能エネルギーへ」等の「疑似餌」で頭の悪い有権者を釣り上げた政治家も多数現れたが、お日様頼りの「太陽光発電」や風任せの「風力発電」が、ものになる筈がない。

「再生可能エネルギー」は個人ベースの趣味の世界の話と定義し、政策議論からは先ず排除すべきである

現在、「石油」に取って代るであろうエネルギー源として目されているのは「天然ガス」である。今期商社7社の海外投資の総額は3兆円超であるが、かなりの部分が「天然ガス」鉱区取得に使われたと聞いている。

成程、「天然ガス」は中東に遍在する「石油」とは異なり全世界に埋蔵されている。従って、「地政学的リスク」は回避可能である。

具体的に言えば、イランで戦争が勃発すれば、日本向けタンカーが必ず航行するホルムズ海峡は封鎖される。従って、結果日本に「石油」は一滴も入らなくなる。しかしながら、「天然ガス」に就いてはその心配はない。

問題は価格である。

「天然ガス」の価格は石油価格、代表的なのはニューヨークの原油先物価格(WTI)であるが、これに連動しており、結果石油価格が暴騰すれば同じように暴騰する。

「石油」から「天然ガス」に転換しても、中東産油国への貢ぐ君から、北米を中心とする「天然ガス」産出国への貢ぐ君になるだけの話で、根本問題は何も解決しない

最近、面白いニュースに接した。要約すれば下記の通りである。

韓国の大統領がトルコを訪問。両国は20億ドルに上る石炭火力発電所計画の原則合意に署名するだろうと。この契約で韓国は新規発電所の建設と既存の石炭発電所のリニューアルを引き受けることになる。また同様のプロジェクトも検討されている由。トルコは現在「天然ガス」による発電で、電力の50%を供給しているが、これにかかるコスト問題から、2023年までに30%に削減し、削減相当分を石炭火力発電の増設で補う

日本では、石炭火力は悪、天然ガスは善、と言う考えが支配的である。しかしながら、経済的な観点から見れば「天然ガス」による発電は高価で贅沢なものなのかも知れない。失業を回避する為には経済を活況にせねばならず、石炭回帰が現実政策として、トルコの如くそれなりに経済政策に成功している国家で採用されている事は考慮に値するのではないか。

この記事
にも注目している。

神鋼はインドネシアのブミ・リソーシズの傘下企業などと、スマトラ半島で燃料製造プラントを建設する事業化調査に着手した。2012年に着工し、15年稼働を目指す。「褐炭」と呼ばれる石炭から火力発電燃料をつくる。低品質の石炭は世界の石炭資源の約半分を占める。今回加工する石炭は水分を60~70%(重量比)含むため燃えにくく、熱量も低く発電には向かなかった。生産能力は年500万トン。安価で販売することで競争力はあるとみている。ブミがアジアで販売、神鋼も自社の大型発電所の燃料として利用する。

「褐炭」は世界にほぼ無尽蔵に埋蔵され、何の商品価値もない謂わば「ゴミ」みたいなものである。これを独自技術で商品化し、しかも自社の発電所の燃料として使用し発電すると言う「垂直統合型」のビジネスである。

平時に於いては発電用の燃料生産をスマトラ半島で行い、これを使用して日本の自社発電所で発電する。

何らかの事情で石油価格が暴騰すれば、スマトラ半島燃料製造プラントを増設、拡大し製品を世界に輸出し利潤を上げる。そして得られた利益の配当を日本に循環するのである。

神戸製鋼所のこの取組は、今後日本のエネルギー政策を考える上で参考にされるべきであろう。

山口巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役