猿橋書記長殿に聞く:公務員組合が「公的施設」で政治活動が出来る根拠は何か?

北村 隆司

日本自治体労働組合総連合の猿橋均書記長は「大阪・橋下市長の異常な職場支配を許さず、住民のために働ける職場・自治体づくりを!」という声明を発表し、「橋下徹氏の言動は、その異常さの度合いを増している」と強く非難した。その根拠として挙げたのが :

•「組合が公の施設で政治的な発言をする事の禁止」
•大阪市の一部の労働組合の不適切な行為を口実に、市庁舎内にあるすべての労働組合の事務所・スペースの退去を求めた。
•「労使関係に関する職員のアンケート調査」の実施。
•事業所内の労働組合の事務所を設置することは広く認められており、労働組合の退去を求めることは、労働者の団結権を侵害する。
•地方公務員といえども政治活動の自由は憲法で保障されている。
•「職員アンケート」は労働組合活動の自由、個人の思想信条の自由を踏みにじる。
•日本の政治の行き詰まりが、公務員労働組合にあるかのような主張。

であった。(1)―(3)は実際に起った事であろうが、(4)-(7)は猿橋書記長の意見であって、橋下市長とは直接関係ない。


(1)に就いては、橋下市長の言い分が当然で、これに抗議する方が異常である。
(2)に「一部の労働組合に不適切な行為」と言う文言がある事から「一部」であるか「大部分」であるかは別として、「一部の労働組合」と表現した事からも、組合員の出来心ではなく、組織的な行為であった事は明らかで、退去するのが当然である。ましてや、家賃の減免措置などトンでもない。
(3)で指摘された「職員アンケート」自体は、ILOからの勧告にも拘らず未批准の「自由権規約の個人通報制度」を、日本が批准していれば起らずに済んだ事件の調査である事を思うと、この規約の承認運動をさぼってきた組合は、先ず、その責任を懺悔べきである。
又、公務員組合又はその組合員が「勤務時間中に公的な施設内で政治活動を行ったり、首長の指揮・命令に反する行動を取る」事は、国民の常識や現行法にも背くもので、これに抗議する組合幹部の精神状態は理解に苦しむ。

然し、アンケートの内容は確かに問題だ。「組合活動への参加」「組合に誘った人の名前」「正確な回答がなされない場合には処分の対象」など、憲法違反か否かは別としても、妥当性を欠いた稚拙なものだと言わざるを得ない。この点、猿橋書記長の抗議にも一理ある。

一方、冷静に分析してみると、この大袈裟な非難の中で、第三者でも納得出来そうな理由は、「アンケートの質問に行き過ぎたものがあった」と言う1点しかなく、この抗議声明も「政治的アジびら」に過ぎないと考えるのが正解だろう。

橋下市長の発言には、挑戦的な言葉や指導者としては少し下品な表現は散見されたが、私の検索した限り、労働組合を否定する発言は皆無であった。組合側も橋下市長に反論するなら、事実をベースに、もう少しまともな論陣を張って欲しかった。

猿橋声明を読むと「労働組合」と「政治団体」とを混同しているのでは? と言う疑問さえ持つ。労働組合は、勤労者が使用者と対等の立場に立って、労働条件などについて交渉する「組織」として憲法で保障された団体であって、労働組合が「住民のため」とか「自治体づくり」などの活動をする事は、組合幹部以外の誰からも信託されていない。

どうしても、その様な運動をしたいのであれば、政治上の主義・主張を展開したり、特定の政治家支援などの政治活動をする団体を組織し、総務省に届け出るべきである。

猿橋書記長の声明は「昔、陸軍、今、総評」と言われた時代の組合の権力体質と、その後に慣習化した「ボス交」になれた事による、不透明体質を暴露してしまった。労働組合や共産党などの旧態依然たる組織は、ボスの任期が異常に永い事からもその陰湿性が容易に証明できる。

猿橋書記長に、公務員労働者の権利を代表する気持ちが本当にあるのであれば、日本政府に対し、公務員の団体交渉権と訴訟権の付与に関するILO勧告の受け入れを全力を尽くして迫るべきである。これまでの組合の動きを見ると、ILO本部に陳情書を出す程度で、橋下市長に対する抗議のような情熱は全く認められない。

私は反組合派ではなく、強硬な「反組合貴族派」であり、既得権破壊論者に過ぎない。人事院の廃止に結びつくILO勧告の受諾が日本で実現しないのは、争議権付与反対と言う口実で、人事院の廃止を嫌う官僚と結びついた自民党の中の既得権保護者と、人事院との癒着を切られる事を避けたい労働貴族が、結託している為としか思えない。

今の組合幹部が既得権を捨てて、労働者の為の真の組合を設立するつもりなら、橋下市長が最も強力な味方の様に思う。組合幹部が、これほど強硬に橋下市長を攻撃する真の理由は、本気で既得権の破壊を求める橋下市長が怖い為ではなかろうか?

「『公的施設』で政治活動が出来る」と言う組合貴族の主張の根拠は「これまで認められて来た」と言う既得権ではないでしょね? それでは「何でしょう?」