原発再稼働問題で追い詰められた政治家たち

藤沢 数希

日本の原発が再稼働できない。現在、54基ある日本の商用原子炉の内で、稼動しているのは東京電力柏崎刈羽原発6号機(新潟県)と北海道電力泊3号機(北海道)の2基だけで、このままいけば、めでたく春先には日本の全ての原子炉が停止することになる。まずは、反原発運動家や、視聴率を狙った反原発報道を繰り返したテレビ局や新聞社、そしてそれに乗った政治家のみなさんに「おめでとう」と筆者は言いたい。財務省によると1月の貿易収支は1兆4750億円の赤字になり、この赤字額は統計がさかのぼれる1979年1月以降の過去最大となった。日本の富が、化石燃料と引き換えに中東などの外国に流出し続けているのだ。全ての原発を火力発電所で置き換えるとすると追加的な化石燃料代は年間3兆円~4兆円ほどになる。現在のところ、こういった化石燃料代は電力会社が負担している。そして電力会社には金融機関が融資し続けている。


さて、このまま原発の再稼働ができないと、もちろん電力危機という問題があるのだが、それ以前に電力会社がつぶれることになる。今のところ、政府が電気代を上げることを認可するだろうという予測や、万が一の時も銀行の債権は政府が守るだろうという暗黙の政府保証があるので、銀行は電力会社に金を貸し続けている。こうやって借りた金で、電力会社は中東などから化石燃料を買っている。そして銀行の金は、もちろん国民の預金でもある。暗黙の政府保証がないと銀行が思えば、借金の借り換えに応じないので、その時点で電力会社はつぶれることになる。その際に大量の不良債権が生まれるが、これがメガバンクを破綻させるかどうかは微妙な線である。もちろん金融危機になれば、税金でメガバンクを救うことになる。金融危機の一歩手前で止まれば、銀行の株価が暴落し、数年間配当がゼロになり、預金金利が限りなくゼロに近づく程度で済むかもしれないが、こればかりはやってみなければわからない。

電力会社を破綻させない方法はひとつだけある。電気代を大幅に上げることだ。そして、国民負担でいえば、こちらの方がはるかに安上がりになるだろう。いずれにしても、政治家には現在、みっつの選択肢しかないようである。

選択肢1.原発を再稼働させる

この場合の問題点は、反原発運動家に叩かれることと、メディアに影響された多くの有権者に不人気なことだ。あれだけテレビで原発や放射能の恐怖を報道すれば、多くの国民が原発の再稼働を悪いことと思っているだろう。また、すでに銀行からの借金で、原発を代替するための化石燃料を1兆円以上購入しているので、今から日本中の原発を再稼働させても、多少の電気代の値上げはさけられない。

選択肢2.原発を再稼働させずに電気代を上げさせる

さすがに夏のピークを原発ゼロで乗り越えるのは困難かもしれないが、工場など大口の顧客への電気の供給をカットするなりすれば、原発ゼロも可能かもしれない。このように火力だけで日本の電力をまかなえるとすれば、理論的には電気代を上げることで、原発の再稼働は必要なくなる。政治家は、がんばって電気代を大幅に値上げすることを国民に説得すればいいだろう。これはこれでひとつの筋の通ったやり方である。

選択肢3.原発を再稼働させずに電気代も上げさせない

最初に述べたように、この方法だと、電力会社がつぶれ、銀行も一部は潰れてしまい、銀行の連鎖倒産の可能性もありえる。政治家は、電力会社の破綻処理や、金融機関への救済措置などで忙殺されるだろう。それはそれで確かに困るだろうが、今さら原発を再稼働させてくださいとか、電気代を上げさせてくださいと言うよりは、次の選挙への影響は少ないかもしれない。この辺は悩ましいところだろう。

以上のみっつの選択肢はどれも政治家にとって辛いものであり、筆者もそのことでは同情を禁じ得ない。そこで、筆者は第4の選択肢を提示しようと思う。これは第3の選択肢の変形バージョンというものだが、なんと原発を再稼働させずに、電気代も上げずに済む方法があるのだ。それは政府が電力会社への融資を完全に保証することだ。そうすることにより金融機関は電力会社へいくらでも金を貸せるので、その金を使って化石燃料をいくらでも買うことができる。完全なる政府保証という点に関しては、国債と同じになるので、電力会社への融資の金利は国債程度に落ち着くだろう。この場合、電力会社は赤字を出し続けるので、どうやって銀行に利子を付けて返済し続けるのかというと、それは実に簡単で、返済するための金を、またどこかから借りて来ればいいのである。これも政府保証が付いているので銀行がいくらでも貸してくれる。この方法なら再稼働も電気代の値上げもせずに済む。政治家のみなさん、このアイデアはどうだろうか?