自然エネルギーという負の遺産を背負い込んだ欧州

藤沢 数希

好景気とバブルの区別はむずかしい。しかし、バブルというのは長期的に見ればやはりいいことより悪いことの方が多いのである。バブルの最中はGDPが上昇するので、経済政策の重要な目標が一人当たりのGDPを上げることだとすれば、一見してバブルはいいことのように思える。しかし、バブルの生成と崩壊は「長期的」に一人当たりのGDPの成長、つまり経済成長を阻害するのだ。バブルというのは必ず崩壊し、その崩壊による痛みを考えれば、なるべくバブルを起こさずに経済を安定的に成長させた方がいいのである。バブル経済による後遺症のひとつが過剰設備である。日本も土地バブルが崩壊した1990年代の初頭まで、将来の需要を過剰に見積もり、様々な産業で過剰な設備投資が行われた。また、公共セクターでもさまざまな過剰設備が建設され、田舎にも都会にも奇抜な箱物が次々と作られた。日本の失われた10年は、これらの過剰設備を解消していくプロセスでもあったのだ。そして、こういう文脈で考えれば、2007年頃まで空前のバブル景気に踊った欧州は、実に巨大な負の遺産を建造してしまったことがわかる。自然エネルギーである。

国別の家庭用電気代の推移
国別の家庭用電気代の推移
出所: 社会情勢データ図録「反原発」の不都合な真実 (新潮新書)


欧州の電気代は高い。特に脱原発をしたイタリアや自然エネルギーの普及に熱心なドイツの電気代は高い。ドイツの場合、製造業の競争力を守るために産業用の電気代を上げていない代わりに、家庭用の電気代は非常に高くなっている。ドイツやスペインなど、2007年頃まで続いた空前の金融バブルの中、政府の財政が非常に潤っていたので、莫大な補助金を投入し、太陽光発電施設や風力発電所を建造してきた。一部の環境保護団体や反核団体が賞賛するドイツやスペインのエネルギー政策だが、筆者はこれは金融バブルが残した大きな負の遺産だと考えている。

そもそもエネルギー密度が低い太陽光や風力は、基幹エネルギーになりえず、非常に効率が悪い。拙著『「反原発」の不都合な真実 』にも詳しく書いたが、世界のエネルギー需要の1%も満たせないこれら自然エネルギーが、地球環境問題に少しでも貢献しているという事実は全くない。現状のテクノロジーで圧倒的に環境性能がいいのは、オーソドックスな天然ガス火力発電所と原子力発電所の組み合わせなのである。

しかし、この微小な発電量を得るための経済的な負担は相当なものである。この「過剰設備」が欧州の経済に今後与えていく影響は、非常に深刻だと考えている。日本も土地バブルが崩壊した後に、過剰な生産設備や不必要な箱物の維持管理費に苦しんだが、この自然エネルギーという過剰設備のインパクトははるかに大きいのである。理由は非常に単純で、電気代が高止まりし続けるからである。電気というのは人々の生活や様々な生産活動に必要不可欠なものであり、そのコストが常に高いということは経済には非常に重荷になるのだ。

昨今、ユーロ危機などで欧州経済に対する悲観論が蔓延しているが、筆者が欧州経済に悲観的な一番の理由は欧州のエネルギー政策の失敗なのである。