孫正義氏のはまった「コンセンサスの罠」

池田 信夫

900MHz帯の周波数割り当ては、予想どおりソフトバンクモバイルに決まった。ここまでの経緯は私がずっと書いてきたので繰り返さないが、孫正義社長が記者会見で「700MHz帯については名乗り出ない」と言明したのには引っかかった。


これで3スロット割り当てることが決まった700MHz帯は、ドコモ、KDDI、イーアクセスで決まり、美人投票も行なわれないだろう。時価1兆円以上の国民の財産が、競争もなしに無料でもらえる日本はいい国である。

もともと900MHz帯は700MHz帯と一体で割り当てられる予定だったが、なぜか900MHz帯だけが今年に前倒しされた。これは「帯域が逼迫しているため」というのが表向きの理由だが、実は帯域の半分以上を占めるMCAなどが立ち退くのは2015年以降なので、急ぐ必要はない。ほぼ同じ条件の700MHz帯と4スロットまとめて割り当てるのが合理的だ。

それを電波部は、わざわざ900MHz帯だけ先行してソフトバンクに割り当て、孫氏を黙らせることに成功した。2年前には「光の道」をめぐって激しく総務省を攻撃した孫氏は、電波政策には何も言わなかった。それがきのうの会見では「オークションには賛成だ」という。身勝手なものだ。

日本の政治的意思決定は、このように官僚がコンセンサスをいかにあやつるかで決まり、彼らの力量もそれで評価される。最強の敵である孫氏を罠に陥れた電波部長は、鈴木茂樹氏。将来の次官候補とされるエリートである。民主党政権の2年半で、霞ヶ関は微動だにしなかったようだ。