日本車の評判? - 怖い「見出し」の違い

北村 隆司

恒例の「コンシューマー・リポート」の2011年モデルの自動車推奨ランキングが発表されました。こんな簡単なリポートでも、各紙の見出しによっては、受ける印象は全く違ってきます。短いとは言え、個人の判断で作る見出しの威力は驚くばかりです。

事実より「主観」中心の報道が目立つ昨今、新聞やTVも余程注意しないと、大きくミスリードされる事が良く判りました。


消費者連盟と言うNPOの手で、1936年に発刊されて以来、中立を維持する目的で広告を受け付けず、充実した自社のテスト施設と巨額の運営予算を使ってテストしたコンシューマー・リポートのテスト結果は、消費者のバイブルと言う評価が定着しています。

その永い歴史には、多くの問題もありました。特に、スズキのSUV車「サムライ」事件は、人気の高かった車種だった事もあり、8年間も訴訟が続いた紛争でした。

今年のリポートを読売のウエブは「トヨタ車が5部門首位・・米の消費者専門誌推奨」と言う見出しで扱い、テレ朝は「トップ5を日本車独占 アメリカの消費者が選ぶ車」と言うテロップでニュースをはじめました。

他の各紙は、殆どが共同の配信でしたので、余り差はなく「日本車は信頼性や安全性が高いと評価」と言う解説を載せています。

消費財の分野で、日本製品を特別ライバル視する韓国の反応はどうかと思い、韓国紙の日本語版ウエブを覗きますと、果たせるかな「民族感情丸出し」の記事が目に飛び込んで来ました。

例えば「米コンシューマーリポート、シビックより現代・起亜車を推薦」とか「米国消費者連盟が発行するコンシューマー・リポートが小型車部門で長期間にわたり上位圏を守ってきたホンダ『シビック』を酷評し、現代のエラントラと起亜のフォルテを推薦した」「過去20余年間にわたり『シビック』を高く評価し、01年以降5回も最優秀車に選定したコンシューマー・リポートは、『今回は良い点数を与えるのが本当に難しかった』と酷評した」と言った具合です。だからと言って虚報とまでは言えず、報道界お得意の「編集権」のなせる「マジック」なのでしょう。

比較的中立なニューヨークタイムスの車専門記者は「ホンダコンシューマー・リポートのトップの座をスバルに譲る」と言うタイトルで記事を書いています。

この記事の中から、興味を引いた部分をまとめて見ますと:
「全体としては今年も好成績を挙げた日本車だが、ホンダの大幅な成績悪化と、スバルの健闘が目立つ。ホンダに限らず、日本車の試乗成績や内装の質が軒並み前年度の成績を下回っている。最も心配なのは、今から15年ほど前にデトロイトが試みた自殺行為を、日本メーカーが真似て、手抜きをしてでもコストを下げようとしている。欧州のメーカーでは、VOLVOの6位が最高で、フォルクスワーゲンの性能は感心しない。ドイツ車の成績は平均して平凡であった。それに比べると、10車種あるカテゴリー別の総合成績の5車種で最高成績を収めたトヨタは、10年振りに見る快挙で称賛に値する。」
と言うものでしたが「日本車の手抜き」と言う指摘には、驚きを禁じえません。米国と同じく、日本でも物つくりが過去になりつつある象徴的な指摘と感じたのは私だけでしょうか?

参考までに、コンシューマー・リポートがテストした13社の総合成績は以下の通りです(フランスとイタリアのメーカーは、米国市場で大失敗して米国市場から撤退したままですので、テストリポートには入っていません)。

1. スバル 2. マツダ 3. トヨタ 4. ホンダ 5. ニッサン 6. Volvo 7. 現代 8. BMW 9. Volkswagen 10. Ford 11. Mercedes-Benz 12. General Motors 13. Chrysler

又、車種別のランキングは:2011年度の最も信頼出来る車トップ10

1位 トヨタ・レクサス CT200h、2位 ホンダ・CR-Z、3位 日産・インフィニティ QX56、4位 トヨタ・サイオン xD(日本名はトヨタ・ist)、5位 トヨタ・ハイランダー (日本名はトヨタ・クルーガー)、6位 トヨタ・レクサス ES、7位 日産・タイタン、8位 ホンダ・フィット、9位 トヨタ・プリウス、10位 トヨタ・RAV4

2011年度の最も信頼できない車ワースト10

1位 ジャガー・XF、2位 ジャガー・XJ、3位 アウディ・Q5 (V6)、4位 シボレー・シルバラード、5位 GMC・シエラ 2500、6位 日産・Z(日本名はフェアレディZ)、7位 フォルクスワーゲン・ルータン、8位 フォード・エッジ (AWD)、9位 ミニクーパー・クラブマン S、10位 リンカーン・MKX (FWD)

嗜好品とは言え、性能の良くないフォルクスワーゲンの経営が良く、最も信頼されない車のジャガーが近来では抜群の経営成績を挙げ、現代より品質の劣るベンツが最高級車の位置を保っている事は、消費者の気持ちを測る事の難しさを示しています、日本で「ベンツより現代の車の方が品質は良いよ」等といったら、真面目に扱ってもらえるでしょうか?

70年代の始め頃までは、米国での日本車の評判も「ブリキで出来た車」程度だった事を思うと、韓国の悔しさが判る気がします。それにしても、ブランド力と実力の違いの大きさには驚きます。

北村 隆司