前回の記事で、以下のようなご意見とご質問を頂きました。とても、興味深いご意見だったので、以下にその返答も含めてご紹介させていただきます。
(ご意見)
空港使用料が航空機重量で決定されず、搭乗者数で決まるのに異論はないのでしょうか。
ロンドン周辺でもスタンステッド空港ならありえますが、LHRなら異論がでそうです。
航行援助施設利用料はどうなんでしょうか。これこそ、LCCとフルサービスに差をつければ訴訟問題になりそうです。LCCが日本で根付いていくには、利用者のマインドチェンジが最大の眼目だと思っています。
フルサービスエアラインと料金以外はすべて同じが当たり前だと思っている人にはLCCは使いづらいでしょう。
(三好の返答)
貴重なご意見ありがとうございます。そこですね。重要なポイントです。
結論から申しますと、異論はでません。理由は、航行援助組織も空港も殆どが民営化されているからです。(とはいえ、航行援助費は、LCCもみな同じです。)欧州の航空政策は、EU統合の一つの「単一市場形成」の過程(三段階)で、長い視点で捉えられてきました。もちろん、国によってその取り組み方は異なり、フランスや初期のドイツは、比較的市場保護の政策をとっていました。
イギリスの場合は、空港の民営化が始まり、それからLCCが発展しました。それまでは、多くの小さな空港(殆どが、第二次世界大戦当時の戦略的空港)は、需要に悩み、比較的低所得地域のルートン地区も同様でした。イージージェット就航初期のルートン空港には、何の設備もなかったことを覚えています。イージージェットの事務所のハンガーと小屋のようなターミナルくらいでした。今では、ビジネスジェットも含め、様々な航空産業の基地にもなっています。
そもそも、ロンドン2空港(LHRとガトイック)の「空港の路線配分政策(Traffic Distribution Policy)」というのは、1978年に、ガトイック(LGW)の低需要を喚起するため、「新たに乗り入れる便は、LGWを使用する」という政策が始まりです。もう、33年も以前のことですね。実際、すみわけられているように見えるのは、この政策そのものの効果もありますが、むしろ、空港間の(他の欧州のハブも含め)「競争」による結果といえます。言い換えれば、そういう競争を生む政策の結果ですね。
日本で、この「すみわけ」という言葉は、違うように政策で扱われているような気がします。同じ「配分」でも「Distribution」と「Allocation」(例えば、羽田のスロット配分など)では、意味が違っていると思うのですがいかがでしょうか。日本では、「機能分担」という政策をとりました。そこでわたくしは、「日本型競争」という言葉をいつも使います。
イギリスの場合も、着陸料は、もちろん重量で設定されます。LHRの場合、空港使用料も高いため、その結果LCCは運航していません。しかし、LGWはイージージェット、スタンステッド空港(STN)は、ライアンの大きな基地です。
LCCと空港の契約については、極秘事項で、内容もエアラインによって違います。空港側は、就航してほしいエアラインには、着陸料も含めた一人当たりの非常に安価な使用料だけでなく、地元でのPR費などの負担なども提示しています。強いLCCには、いつも交渉力があり、これは、航空機を購入する際もそうです。
さて、日本の場合は、前々回の記事でも少しふれましたが、昭和47年から始まる「空港整備特別会計」によって、空港システムの発達と管理をされてきました。高度成長期と共に、日本の航空を発達させるために設定され、その役目を果たしてきました。決してスピードと規模は、違いますが、丁度今の中国のような状況だったのでしょう。この主な財源は、税金と年金による金利、燃油税です。
しかしながら、40年たった今もこれを続ける限り、LCCによって、安価な運賃は提供されますが、その負担を国民全体でまかなうことになります。この先これをどうするかは、日本にとってLCC以上の大きな課題でしょう。日本の航空システムそのものを変えることになります。
アジア近隣との競争もEUとはまた違ったケースですし、民営化をするとしても、赤字の空港を今の状態では、外資は買わないでしょう。しかし、LCCで実績を示すことが出きればよいかもしれません。ですから、日本のLCCは、外圧だけでなく、赤字で悩む地方空港やその体制を維持してきた官とエアラインの苦肉の策ともいえます。
前回の記事で、LCCの発達には、「自力」で経営ができる空港が必要という言葉を使ったのは、そのためです。競争力のある空港とエアラインが、win-winの関係を構築しながら、共に発達しなければなりません。日本では、この大きな課題が一気に起きている。しかも、世界でも低コスト高サービスのアジア系航空会社に比べ、日系の既存航空会社は高コスト体質であるという、まったなしの状況です。
1998年ころまでにこの分野に手をつける機会はあったはずなのに残念なことです。バブル期にたくさん計画してしまった空港を、「すみません、やっぱり縮小します」とは政治家も政府も含め、言えなかったのでしょうね。それと、「失われてた10年」が20年になるとも思っていなかったからかも知れません。世界でも優秀で働き者の日本の官僚とエアラインの皆さんです(これは本当です。いやみではありません)。きっとその点は、理解していたと思います。また、景気の悪い時期に、根幹を変えるシステムの再構築をするという英断は難しかったのでしょう。
でも、今からでも遅くはありません。作ったものをいかに有効に使うか、どうやって、コストを下げ、また航空以外のところで利益をあげるか努力が必要です。LCCによって地方空港の需要が伸び、経済効果や利便性が高まることで、地方の税金や投資によりLCCを誘致することはペイバックされるかも知れない。これまでも地方空港の国際路線の95%以上は、韓国系のエアラインにより、イーチョン空港のハブを供給してきました。LCCが、この市場を使わないことはありません。これから、どのようにマーケティングをし、効率のよい経営をしていくか、空港は、試されます。
災害時の対応なども含め、地方空港にも重要な役割があります。必要な数の地方空港が、地元の人々のために、競争力をつけ、有効に活用されなければなりません。また、そのように出来る航空システムを構築しなければなりません。
最後に。そうですね。質問者さんのおっしゃるとおりです。利用者の意識も変わるでしょうね。イギリスでも、LCC当初は、「そういうものは、アメリカでは通用するかもしれないけど、ヨーロッパでは、受けいられない」と言われていました。今では、重要な市民の足です。わたくしの大学院にも多数のEUの学生が多くおりますが、週末にスペインやフランスの実家に気軽にLCCで帰っています。様々な国籍の学生が机を並べ、また気軽に、故郷にも帰郷することができる。そういったことが、日本でも出来ればいいなといつも思っていました。LCCによって、人々の交流は必ず広がります。
皆さんご存知のように、欧米型のケースは、必ずしもそのとおりに、日本ではあてはまりません。しかし、前例を参考にして、ベネフィットとリスクを評価しながら、建設的な見解をもって検討することは可能です。日本の、アジアのマーケットに沿った航空システムの構築を目指そうではないですか。
長くなりました。航空の自由化やLCCについて、また、羽田や成田のハブ戦略についてもいつか、書きたいと思います。今後とも、ご意見をお願いいたします。ありがとうございました。
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