トリガーとプロセス重視の教育へ 新学習指導要綱を考える --- 岡本 裕明

アゴラ編集部

新学習指導要綱が昨年の小学校に引き続き本年4月から中学校に、そして来年には高校へと本格的に適用されていきます。この新しい学習指導要綱の目玉は

「ゆとり」か「詰め込み」かではなく、基礎的・基本的な知識・技能の習得と思考力・判断力・表現力等の育成(文部科学省のサイトから)となっております。

教科書の厚みは膨れ上がり、内容も濃くなるそうですが授業時間数は中学校で105時間増加するものの教科書のボリューム、内容増に見合う程ではないそうです。


いろいろな意見があったゆとり教育でしたが総じて疑問点のほうが多かった気がします。私はゆとり教育が本来求めていた暴力、いじめ、登校拒否といった学校教育問題と青少年が関わる社会問題の解決という根本目的と違うバイアスが強く出て、結果として相対的な学力の低下、国際社会の中での日本の競争力の潜在的低下のリスクという観点が強調されてきたように思えます。

新学習指導要綱が具体的にどう展開されるか、これは数年間待たないと一定の状況や成果は見えてこないかもしれません。

私は個人的には詰め込もうがゆとりを持たせようが結果は同じだと思っております。人間の能力とキャパシティーは果てしないものがあります。アインシュタイン博士ですら脳みその数%しか使わなかったといわれています。学校教育を通じた教育ボリュームは人間個体としてはまったく問題ないでしょう。それよりもそれをどういうモチベーションで記憶させ、どう引き出すか、これが最大のポイントだと思うのです。

私の今使っているノートパソコンやデスクトップのパソコンは正直、性能的には中ぐらい以下だと思います。ですが、特にそれで困っていることはありません。理由はインプットし、記憶するデータをどのファイルに系統的に入れ、必要なときにどれぐらい引き出しやすくするか、これに全てがかかっていて性能の全てを使い切ることはないのです。

学校教育も単純記憶ではなく、インプットした記憶をいかに応用させ、引き出せるかが目覚めを与えるような気がします。

例えば戦国時代。教科書では年号順に織田信長、豊臣秀吉、徳川家康のそれぞれのベンチマーク的事実を流すだけだと思います。正直、その内容を私は長らく忘れておりました。しかし、久しぶりにNHK大河ドラマを見てすっかりとりこになり、猛烈に興味を持ちました。

理由は簡単です。豊臣秀吉は変な性格だったようだ、これにつきます。学校教育では無表情の秀吉の写真が小さく出ているぐらいでしょう。或いはホトトギスのたとえ話をするぐらいだったと思います。ですが、もし、学校時代に「秀吉は変わり者だった」というテーマがあればぐいぐい引き込まれていったでしょう。

トリガーという言葉があります。「引き金」です。子供はさまざまなものに興味を持ちます。そして、なぜ、なぜ、なぜを繰り返します。つまり、興味があるのです。その興味の扉をもっと開かせる、目からうろこの事実を教える、これも教育だと思うのです。

人は一人として同じ性格ではありません。とすれば人が興味を持つものは全て違います。私が教育者ならば例えば先述の歴史上の三名ならばこの三名から一人をピックし、調べ、レポートし発表せよ、という形ではないでしょうか?そして、発表の際、クラスメートで意見を戦わせる。これは相手の内容を知らないと討論になりません。ですから自然に拡大研究に繋がると思うのです。

もう一例。私が英語を喋ることができるようになったのは19歳の時にイギリスに行った経験からです。小学校5年生ぐらいから英語の塾に行き、学校時代は英語が得意だったと思います。しかし、イギリスに行ったときそれがほとんど役に立たなかったことのショックが大きすぎました。試験や入試でいくら素晴らしい点を取っても身についていないという気づきから英語を一生懸命勉強したのです。

日本に欠けているものは考える力とそのプレゼンテーションです。日本では入試というハードルを理由に答えは一つしかない、という教育です。四択で答えは一つです。こちらでは極端な話、全てが正解という考え方をします。もちろん、答えが一つしかないものが多いと思います。ですが、私はその答えにたどり着くまでのプロセスをもっと大事にした教育になってもらえればと思っております。

この新学習指導要綱は少なくとも今後数十年間は大きくは変わらないでしょう。つまり、これが我々の未来のベースになってくるのです。これに肝に銘じ、踏み出しに留意していただければと思います。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年3月13日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。