本日(3月15日)、自民党本部において開催された政策調査会・生活保護プロジェクトチーム勉強会で、「生活保護の現状・問題点と今後の在り方について」と題する講演を行った。講演資料を私のHPにアップしたので、ご参考まで(※編集部注pptファイル)。
このプロジェクトチームでは、野田政権が建てた平成24年度予算案の生活保護費3兆7000億円を、8000億円分カットしようとしているなどと、単に予算カットを狙っているだけというような批判的報道がなされている。しかし、勉強会に出た感じでは、もう少し真面目に効率化や自立支援の在り方など、法改正も含めた制度改革自体を考えようとしているように思えた。
また、生活保護予算のカットというと如何にも非道なことをするような印象を持たれてしまうが、デフレがずっと続く中で、生活保護費の名目金額が10年以上変わらない状況が続いている。物の値段が下がる中で、生活保護費が変わらないということは、買える物の量が増えるということである。もし、10年前の生活保護費が最低生活費であったならば、現在の金額は明らかに最低生活費の定義とは矛盾していることになる。
もちろん、水準均衡という考え方からは、一般労働者の賃金は減少を続けているのだから、それに合わせてデフレよりももっと生活保護費を下げるべきという理屈もあるが、これは議論の余地のあることである。
ただ、年金の特例水準も3年かけて引き下げてデフレに対応することになったのだから、私は生活保護費も少なくともデフレ分はカットする余地があると思う。もちろん、激変緩和で3年ぐらい時間をかけてやるのがよいと思うし、老齢加算がなくなった分だけ、高齢者の保護費引き下げは今回は緩和すべきと思う。一方で、母子加算は復活したのだから、母子家庭にはその分の対応があってよいだろう。
いずれにせよ、民主党野田政権は、自民党が生活保護費のカットというこれまでの「不人気政策」に乗り出したことの意味をよく考えるべきだ。デフレが続き、賃金減少・失業が続く中で、国民の少なくない割合が現在の生活保護制度に強い不公平感を感じていることの反映なのである。民主党の低所得者バラマキ路線は、完全に潮目が変わってきている。
このような路線は、財政的にも持続不可能であるし、何よりも国民感情から持続困難ということなのである。自民党の論議が単なる生活保護費カットに終わらないよう、それを受ける側の民主党にもきちんとした論戦に応じてもらい、これを機に、現在の非効率な「なし崩し的状況」から、自立支援に向けた抜本的な改革論議が広がるとよいと思う。
編集部より:この記事は「学習院大学教授・鈴木亘のブログ(社会保障改革の経済学)」2012年3月16日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった鈴木氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は学習院大学教授・鈴木亘のブログ(社会保障改革の経済学)をご覧ください。