金融市場において最も重要な情報は何か

小幡 績

それを持っているのはブローカーである。

ブローカーとは、証券取引の委託を受けて売買手数料を稼ぐ人々、会社である。金融業界では一番格下だと思われている。バイサイド、つまり、お金を持っている、運用者が一番えらく(職業としておいしく)、次にセルサイド。

バイサイドも実は情報を持っている。それは価値がある。しかし、そうであるならばブローカーの方が圧倒的である。

その情報とは何か。

ブローキングである。

以下では、この記事(「今回のインサイダー取引は大きなビジネスの変化につながる可能性がある」というBLOGOSの記事)に対する反論をしたい。


この著者は誰か分からないので、面識のない論者に反論を書くのは気が引けるのだが、ここは、私は、別の意見を持っている、ということで、様々な意見の一つとしてご容赦願いたい。

この記事では、ブローカーの仕事をもらうには、何かおいしいものがないと、誰も同じような業務に注文を発注してくれない、それは情報だが、企業分析はどこも似たり寄ったり、ただ意見が違うと言うだけで、絶対的な差別化, 付加価値は提供できない。だから、どうしてもインサイダー情報を小出しにして顧客をつなぎ止めるしかない。そして、それが今後出来なくなると、誰もブローカーを使わなくなるのではないか。

という議論だ。

これは一つの均衡だが、別の均衡もあり得る。

今後も、有力なブローカーを機関投資家達は使い続けるのではないか。

なぜならブローカーは最も重要な情報を持っているからである。そして、それはブローカーしか持っていない。

市場における最も重要な情報とは何か。

それは価格である。

そんなの当たり前ではないか、と言われそうだ。それはその通りだが、昔は、情報網が整備されていないから、相場価格を把握するのが一番重要だった。日本でも米の先物の情報を手旗信号や、鐘や、煙で伝えることによって財をなした話が多数ある。競馬も昔は、馬券が窓口ごとに分かれており(1-2の窓口と3-6の窓口は別だった)、その窓口の列の長さで人気を判断したこともあった。そして、今も不動産や、一部の特殊な商品については、実際の取引価格が重要であり、それは一部の人々の手に集中しており、彼らが取引を優位に進める。

現代の金融市場でそんなことはあり得ない。少し前までは、個人が世界中の企業の株価や商品価格をリアルタイムで知ることなど夢の又夢で、それどころか、自分の買っている日本の個別株式の株価は、自分では分からず、証券会社の窓口で買っても、実際の価格は成り行きで買った場合には、分からなかった。板寄せ情報をネットでリアルタイムに見られるのは一部のトレーダーに限られていたのはついこの間のことである。新聞の株式欄の株価一覧も貴重だったが、今や無用の長物である。株式専門の新聞のような類いにおいておや、である。

しかし、株式専門の新聞は一定の需要がある。私自身もかつては読んでいた。何のために?

それは、「情報」のためである。

情報を得るため、である。

そんな新聞に書いてある情報なんて古いし、正確でもない、めちゃくちゃだ。何のためにそんなものを使うのか。

それは仕手筋をはじめ、ある人々の狙いを知るためである。

この話は後で戻ってくることにして、株価である。今は株価はリアルタイムで分かる。だから、価値のある情報とは何のことか。インサイダー情報以外にやはりないのではないか。

市場における一番重要な情報は、誰がどのくらい売ったか、買ったか。それがすべてである。

市場は、投資家の売買で動く。それ以外では動かない。それならば、他の投資家の将来の動きが予測できれば勝てる。将来の動きは今は分からない。気が変わるかもしれないし、状況も変わるだろう。しかし、その基礎となるのは、彼らの今の考えとポジションである。

それが現れるのは、実際の売買行動である。

だから、有力な投資家が何をどれだけ売買しているかは極めて重要なのである。

だから、大量保有報告書が重要なのである。

しかし、プロは大量保有に載るようなへまはやらない。

その水面下、5%未満での売買情報を握っているのは、その注文を受けているブローカーである。そして、信頼されているブローカーには多くの有力投資家が注文をするとなると、市場全体の動向の鍵となる情報は、自然とブローカーに集約されることになる。

だからブローカーは重要なのである。

まともな投資家にとっては、インサイダーなどという危ない情報は使えないが、有力投資家の動きの情報の方が遙かに重要であり、まさにブローカーにみんなが使う有力ブローカーを使うのにはそこに意味があるのだ。

ライブドアショック直前の個人投資家、ネット株バブルブーム、FXでのミセスワタナベなど、個人が市場を動かしていた場合は、ネット証券が情報を持っていた。彼らがそれをどう使ったかは分からない。使うビジネスモデルを考える前にバブルは崩壊したのかもしれないし、そうではないかもしれない。

しかし、ここで話は終わらない。有力投資家も有力ブローカーも、こんな話は百も承知なのである。だから、ブローカーから話が漏れ伝わるということは、誰かがそれを伝えようとしている、ということなのだ。ブローカーが確信犯の場合もあるし、そうではない場合もあるだろう。そして、有力投資家は、海外など別のところで、あるいは自分で、売買をしているかもしれないのだ。

だましあい、であるが、しかし、それでも、だまそうとしている、という情報は重要なので、そこは情報の受取手の力量の問題である。

だから、私は、株式専門の新聞も読んでいたのである。