この国でXXXと言ったら抹殺されるぞ

純丘 曜彰 教授博士

リベラルを自称する朝日新聞までが言論弾圧に荷担か。そのデジタル版3月24日版が、マンガ家の西原理恵子がテレビ番組を降ろされた、番組中の発言が原因とみられる、とだけ報じている。言論の自由がある国、その自由を主張する言論機関で、この始末だ。この朝日の報道自体が、西原を社会的に抹殺する陰険な意図を秘めているのではないか。なぜ、きちんとどんな発言だったのか、を報じないのか。


もともとこの番組、この局自体が、やっかいものだ。ただでさえ東京は全国を支配するネット局が集中しているのに、バブル時代に東京都や東京商工会議所がむりやりさらに創った東京メトロポリタンテレビ。しかし、官製ローカル放送などという怪しいテレビ局は、すぐに経営がぐちゃぐちゃになり、いまはFMラジオ局の傘下に入って過激な娯楽路線で努力しているが、その象徴が『5時に夢中』という言いたい放題の、いわくつきのキワモノ番組。昔のラジオの深夜放送よろしく、一部に熱狂的な人気がある。

だいたい西原なんか出すくらいだ。ほかの出演者も、推して知るべし。この番組の木曜の一コーナーに「装丁ジャンケン」がある。紙の本を見直そうということで、さまざまな出版社の編集者が、これ、という装幀(「装丁」という言い方は嫌いだ)の本を紹介し、出演者たちが評論するというもの。問題の3月15日は、しりあがり寿の『みらいのゆくすえ』(春風社)と宇佐見宏子の『裸身』(鳥影社)。

番組制作者の意図は見え見えだ。ゲストがひねくれまじめな西原なんだから、311後の世界を最も真剣に見つめている同業のしりあがりはウケがいいに決まっている。他方、宇佐見某なんか、だれも知るわけがない。あまりにも格が違う。にもかかわらず、番組制作者がこんなのを持ってきたのは、「エロスを表現した装丁」という、その紹介でも明らか。つまり、最初から、毎度おなじみの下ネタのフリ。中身からして「性を想起させるシーンが連続」だそうだ。

こんなキワもの扱いにもかかわらず、編集者がこの本をこのコーナー持ってきたのには、わけがある。この装幀は、多摩美出身で筑摩書房の社内デザイナーから不動の地位を築いた業界の大御所、中島かほる、だからだ。無名の著者、弱小の出版社でこの装幀は、そうとうにがんばった「自信作」なのだろう。だが、いつも下ネタ好きのはずの出演者たちも、このドロドロとドドメ黒い巨大牡丹が描かれた表紙には引いた。そのうえ、テロテロと油っぽい編集者に、ニヤニヤと「この牡丹は女性の官能性を表している」などと自画自賛された日には、あまりに「牡丹ど真ん中、XXXど真ん中」で、きもい、センス悪い、どんくさい、と嫌がるのも、当然。そりゃ、数十年も前のカストリ的エロ趣味だ。

つまり、西原は、この中島と編集者の、おっそろしく古くさいエロ趣味を、XXXど真ん中、と批判しているわけで、そんなババアの大股開きみたいなシモ臭いもん、世間の書店の棚にさらすんじゃねーよ、色気もなんもあったもんじゃねぇ、と、いう意味で、否定的に使っている。編集者や装幀屋があきらかに意図的にXXXを表紙に描いていて、それに対し、「XXXなんか出すな」と批判した側が世間の批判を浴びる、というのは、本末転倒もはなはだしい。

しかし、西原の方が切られる背景には、近年の「装幀家先生」の増長がある。昨今、本は、読むものではなく、買って持って人に見せびらかすものであり、実際、中身より装幀で売れる。このため、出版業界では、ありあまる著者ごときより、装幀家さまさま、という風潮が蔓延している。出版コンサルタントのごとく、各社編集者たちの前でふんぞりかえって、本の中身にまで意見する。

ところが、西原やしりあがりなど、絵柄より中身そのもので読まれ、本も大いに売れている。文章も使わず、人生の機微と人間の琴線に触れる物語を紡ぎ出す新しい時代の才能の出現に対し、へたな文章をこねくり回しているだけの古くさい文芸編集者たち、その上にふんぞりかえる装幀家たちは、ただでさえ激烈な嫉妬と嫌悪を抱いている。

XXXと言った、言わない、などというのは、しょせんクビ切りの口実で、装幀の大御所を貶せば、業界から暗黙のうちに抹殺される。出版社が広告のお得様の新聞社も、出版界に追随するのは当然。独自の文化基盤のない放送の連中も、みんな、右に倣え。つまり、虎の尾は、XXXではなく、装幀家の方だ。

こんな古くさいXX、業界の中で自慢になっても、いまどき世間に売れるとは思えない。だが、翻訳業界のX田XX子、野球業界のX辺X雄、芸能界のX田XX子、などなど、こういうのは、あちこちにいる。ちょっとでもXXはXXXだなんてXXなことをXXしたら、XXが飛ぶ。XXからXXされる。まったくXXは、XXなXXXだ。アブナイ、アブナイヨ。

by Univ.-Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka 純丘曜彰教授博士 (大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン)