産経ニュースが伝える所では、井上民放連次期会長がNHKにテレビ番組のネット同時配信の自粛を要請したとの事である。
正直、未だに民放連次期会長の要職にある人物がこんな事を言っている事実に驚くと共に、民放の将来は実に暗いなと思った。
坊さんがお経を繰り返す様に、相も変わらずこんな手垢の付いたコメントだ。
「一番大事なことは、加盟各社が放送メディアとしての価値を上げるよう番組内容の充実に尽力することだ」
これが実行出来れば誰も苦労しない。しかしながら、民放は何処も視聴率を下げており、これでは減収減益は必至で、放送メディアとしての価値を下げても番組制作費の軽減に努めざるを得ない。必然的に番組の質は下がり、視聴率も下がる。民放は間違いなく「負のスパイラル」に陥っているのである。
視聴率低下は、民放に於いては直接売り上げの落ち込みを意味する。
一方、NHKに於いても当然の事ながら、公共放送としての存在意義の低下を意味する。これに危機感を持ち、番組のネット公開を進め様とするのは、極めて妥当な話である。
井上氏は、NHKが検討しているテレビ番組のネット同時配信について「受信料で負担すべきなのかという問題がある」と指摘。NHKの東京での放送がネットに流れれば「民放ローカル局が東京の情報に圧迫される」とし、「控えていただきたい」と強調した。
番組を視聴者にもっと見て貰おうとすれば、視聴の場を家庭のリビングに限定せず、携帯端末に配信するのが現時点では最も現実的ではないのか?
民放には、どうも視聴者に寄り添うべきとの気持ちが欠けているのではないか?更に訝しいのは、割当てを受けた電波帯域経由の配信(放送)とネット経由の配信を、何故これ程別物と峻別したがるのかである。
視聴者に取ってはどちらでも同じ物の筈である。青森で採れた林檎をトラックで東京迄輸送しようが、鉄道を利用しようが、気にする消費者が果たしているだろうか?
携帯端末に配信しても視聴率が取れないと言う背景があるかもしれない。
しかしながら、東京、大阪、名古屋に各600台のモニターを設置し、電話の上り回線で視聴状況を確認すると言うのは、露骨に言ってしまえば50年前の発想、システムである。
現在の実情に即したシステムに改修すると言うのが、普通の世の中の考え方ではないのか?
それとも民放は、NHKの改善、進歩の足を引っ張り、これからの50年も古いシステム、古い思想で満足と言う事であろうか?
仮にそうであれば、国民の貴重な共有財産である電波帯域は随分無駄に使われる事になる。
山口 巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役