1.豊富な観光資源
広島県が大胆な行動に出た。毒舌で再ブレイクしたお笑い芸人の有吉弘行さん(広島出身)を起用して、「おしい!広島県」という自虐的な観光PRを開始したのだ。山手線内でも映像が流れており、目撃された方も多いかもしれない。アイデアは広告代理店が練ったのだろうが、B級感の漂うPRを最終的にOKした広島県は、面白くも何ともない手堅い広告ばかりの大企業より頭が柔らかい。
確かに、広島には豊富な観光資源がたくさんある。世界遺産は二つもある(厳島神社、原爆ドーム)。ヘラで直接食べるお好み焼きや新鮮な牡蠣もうまい。しまなみ海道(広島県尾道市-愛媛県今治市間、約70km)をサイクリングし、離島で海を眺めながら瀬戸内の風を感じるのも気持ち良い。その他にも、高いポテンシャルを秘めているのに、全国的には余り知られていない「おしい」観光資源がたくさんある。私は広島に数年間住んでいたこともあるため、このPRを通じて多くの人に広島の魅力が伝わることを期待している。
2.貧弱な交通インフラ
しかし、観光客の呼び込みでネックになっているのは広島の観光資源(コンテンツ)の知名度なのだろうか。観光戦略を成功させるためには、観光資源(コンテンツ)と観光地までの便利なアクセス(交通インフラ)という両輪が欠かせない。私は交通インフラこそが広島の最大の弱点なのではないかと考えている。
例えば、東京圏から広島に観光旅行をする場合のアクセスを考えてみよう(広島県としても人口の集中する東京圏からの観光客増加は最も望むところだろう。現に、「おしい!広島県」の大々的な記者発表を池袋で行っている)。
飛行機で広島に行った場合、広島空港から市街地へのアクセスが劣悪である。鉄道やモノレール等が広島空港に接続しておらず、交通手段は自動車(バス、タクシー、自家用車)に限られるため、多くの観光客は市街地まで約1時間掛かるリムジンバスに乗るしかない。その結果、東京から広島までの飛行時間は約1.5時間なのに、羽田空港までの所要時間、空港での待ち時間や市街地までのバスの乗車時間などを考慮すると片道で約4時間程度は掛かってしまう。週末や祝日など山陽道が渋滞する時はもっと時間が掛かるし、渋滞が激しい場合、リムジンバスが運休するという最悪のリスクも潜んでいる。
新幹線で広島に行った場合も、乗車時間は約4時間である(のぞみ「東京-広島」)。つまり、飛行機と新幹線のどちらであっても、広島に行くには片道4時間程度の覚悟が必要だ。
東京圏の住民から見ると、片道4時間というと韓国や台湾など身近な東アジア諸国に行くのと大差がなくなってしまう。東京-広島間の飛行時間はたった1.5時間なのに、空港の立地が不便なためにそのメリットを全く活用できず、他国の観光地との無用な競争に巻き込まれてしまっているのだ。
なぜこのような不便な場所に広島空港があるのだろうか。広島県第2の都市である福山市に配慮した結果、県西部の広島市と県東部の福山市の真ん中に空港を設置するという妥協案が採用され、結局どちらからも微妙に遠い、不便な空港になってしまったようだ。
足して2で割ったような行政の意思決定が悲劇を生んでいる。広島で「おしい」のは、観光資源ではない。交通インフラなのだ。
高橋 正人@mstakah