理念なき宇宙開発 --- 古舘 真

アゴラ編集部

日本の巨大技術開発に共通する問題点は、目的が不明確である事と予算の配分が中途半端である事だ。ここでは理念なき国策技術開発が多い中で典型の宇宙開発事業について持論を述べる。尚これは私自身のサイト「自然科学と技術>技術亡国>理念なき宇宙開発」の抜粋なので興味をお持ちの方はそちらをご覧頂きたい。


経済的問題点

日本の宇宙開発は「非軍事の建前」、「射場の緯度が高い」、「単独開発」などによる高コスト体質を抱えている(近年、軍事利用に対する規制緩和の動きもあるが)。

まず非軍事限定のデメリットだが、各国の宇宙開発の主目的は軍事にある。メーカーとしては民間の商用分野だけで利益を上げなければならず競争で当然不利になる。また軍事は防衛という重要な役割を担うので多少赤字でも構わない。

欧州連合の宇宙開発費は日本の約2倍にもなると強調されるが、日本が単独で宇宙開発を進めているのに対して欧州連合は約20ヶ国で共同開発しているため1国辺りの負担は約十分の一に過ぎない。

NASAの予算が日本の10倍近いと言っても米国の経済規模は日本の数倍もあるので国家予算に対する割合はせいぜい日本の3倍程度に過ぎない。既に述べた通り海外の宇宙開発は軍事と関連が深く防衛も兼ねているので、その分精神的負担は軽い。
ただでさえ中途半端な予算が戦前からの日本お得意の縦割り行政で更に細分化されている。

欧州やロシアの人工衛星射場は赤道付近にあるが、日本は北緯30度の種子島にある。このため約1.5倍の打ち上げコストになるそうだ。

幾ら金がかかろうとそれに見合うリターンがあればよいのだが、既に述べた非軍事の制約があるために最大の市場を失っている。

商用については日本では年に数回しか打ち上げの需要が無いと言われているし、全世界の商用衛星を独占したところで黒字が出るかどうかも怪しい。発展途上国のインドや国民が飢えで苦しむ北朝鮮までが宇宙開発に地道を挙げ衛星やロケットを売りたくて仕方ない国が多いダンピング状態なので典型的な買い手市場だ。

不明確な目的意識

日本の宇宙開発技術の世界一を挙げるとすれば「目的が最も不明確」な点だ。各国が宇宙開発に取り組む主な目的は「軍事」、「商用」、「科学技術振興」などだ。

日本の宇宙開発は非軍事が原則だったが、2008年には宇宙開発基本法を成立させ、防衛目的に限り宇宙の軍事利用が行われる事になった。

私は宇宙技術を軍事に使う事に反対しないが、中途半端に認めるのではなく宇宙開発を防衛省の管轄として一元化した方がよいと思う。

軍事利用しないなら普通は商用が主な目的になりそうな気もするが、日本政府や企業の真剣さが伝わらない。

今まで説明した様に欧米に技術で勝てそうな要素はない。インドや中国にも人件費で負ける可能性もある。「この程度の研究費にしてはよくやっている」という国内での言い訳にしかならない様な特徴しかない日本の技術を使ってくれる奇特な国や企業はないだろう。

科学技術振興についてはどうか。
例えばアポロ計画では素材の技術が「焦げ付かないフライパン」の発明に繋がる波及効果があったとされるが、単に科学技術振興であれば宇宙開発でなくても構わない。宇宙開発は典型的な経験産業で実用化が進み基礎研究ではなくなっている。焦げ付かないフライパンを開発するだけなら宇宙開発でなくても素材の研究に同額を使えば遥かに優れた製品が出来た可能性もある。

中途半端な予算配分

欧米との予算配分比較について述べたが、重要なので繰り返し強調したい。
日本の予算は米国の約十分の一、欧州連合1国辺りの約10倍で丁度相乗平均になっている。いかにも日本的な中途半端な設定だ。多ければ良いというものでも少なければ良いというものでもない。

しつこく繰り返すが、「この程度の研究費にしてはよくやっている」というよく聞く台詞についてはそもそもこの程度の中途半端な金を出すのは日本政府だけなので日本の研究者の見苦しい言い訳に過ぎない。要するに責任を取りたくないのだ。

変な言い訳は聞きたくないので、出すなら思い切って世界一出す、逆に「現時点では特に宇宙開発の必要性は無いが、将来のために技術を保持しておこう」というのであれば思い切って切り詰める、のどちらかにすべきだ。

古舘 真
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