技術亡国論 その2「東京スカイツリーの無意味な高さ」 --- 古舘 真

アゴラ編集部

建築工学科で構造力学を専攻しゼネコンで構造計算を担当した観点から、自立式電波塔部門高さ世界一を誇る東京スカイツリーの愚かさを語ってみる。

世界一が目的か

技術世界一を誇る「お国自慢」は様々な場面で見受けられる。

中国の超高速鉄道は営業速度世界一」、「日本のスーパーコンピューター『京』は計算速度世界一」などがあるが、私はどちらも高く評価しない。

まず中国の高速鉄道は死傷者が続出している。

日本の「京」は旧式ソフト計測値が世界一というだけで互換性、汎用性、運用コスト、需要などが省みられていない。

共に速度世界一だが、単に概念が分かり易いだけだ。


様々な性能を総合的に勘案した結果として世界一なら評価できるが、面子をかけて素人に分かり易い数値を強調されても誉められない。

高さは性能ではない

建物の高さを自慢するのは更に愚かだ。なぜなら高さは性能ではないからだ。

安全性を犠牲にしたにせよ鉄道の営業速度や計算機の計算速度などは速いに越した事はないが、建物が高い事自体メリットは乏しく、むしろ周辺環境の悪化などデメリットが多い。

工業製品の大きさ、高さ、重さ、長さなどは同じ性能なら出来るだけ小さい方が便利だ。橋を架けるのに「出来るだけスパンを長くする」技術者はいない。

古代に商人などのため高いランドマークタワーを建てたとか権威を示すため高層建築を建てた以外は極端に高い建物の実用的意味は乏しくなった。

もちろん電波塔は高さが重要だが、あくまで周囲より高い事に実用的意味があるので、高ければ偉い訳では決してない。

最も高いビルでも高さ250m程度の東京に世界一高い電波塔が果たして必要か。

嘘臭い世界一

高さ世界一の前に付く「自立式電波塔」の意味は何か。

わざわざ付けたのは「高くするのが技術的に普通のビルより難しいからなのか」というと全く逆だ。

そもそも電波塔は高くする事を目的としているので通常の鉄筋(鉄骨)コンクリートビルと比べて高くするのが遥かに容易だ。

アラブ首長国連邦ドバイの世界一高い超高層ビル「ブルジュ・ハリーファ」は高さ828mで東京スカイツリーより約200m高い。

しつこいようだが、同じ程度の高さならビルより鉄塔の方が遥かに建築が容易だ。

巨大電波塔に頼らずとも山の上や衛星から電波を発信する方法もあるし、今ではインターネット放送もある。

必要性が低下した上に高さを稼ぎ易い電波塔部門で世界一を強調するのは如何わしい。

高さのための高さ

実用性を求めて世界一になったのなら評価できるが東京スカイツリーのサイトで世界一狙いの意図が明かされている。

東京スカイツリーの高さについては、プロジェクト当初から「約610m」としておりましたが、当初から自立式電波塔世界一を検討しており、世界一を目指した範囲を想定して構造等の対応を行ってまいりました。その結果、世界各地で高層建造物が計画、建設されている中で、自立式電波塔として高さ世界一を目指し検討を重ね、634mに最終決定しました。

当初の610m自体が記録狙いの様だが、計画変更して更に24mも高くした事になる。

工業製品において「高さ」、「重さ」、「長さ」、「体積」などは出来るだけ小さくするのが常だ。

例えば世界最大の旅客機エアバスA380は大型化が目的ではなく多くの旅客を運ぼうとした結果最大になっただけだ。設計者とすれば同じ旅客を運べるのならむしろ小さくしたかっただろう。

これは我が国の超巨大な橋やトンネルなどについても同じだ。例えば青函トンネルや明石海峡大橋は「出来るだけ最短ルートにしようとしたが結果的に世界最大の建造物になった」のであり、もし最初から世界一を狙って意図的に大きくしたのなら愚かだ。

技術の限界と実用の限界

今の技術ではどの程度の高さまで建てられるのか。

大手ゼネコン関係者によると「2000m程度は可能」だそうだが、私も千mは楽に建設できるだろうし2000m級も可能と見る。

超高層建築上位はほぼアジアに集中しているが、空室率の高さが目立つ。

それに対し欧州は景観重視もあるだろうが、経済大国が多く地震が少ないにも関わらず2百m超の建築は殆どない。

大都市で高層ビルが多いのは容積率を高めて土地を有効に利用しようとするからだが、あまり高過ぎてもエネルギーや維持補修費などで却って無駄だ。

高さ何百mもの建築がぽつんとあるより200m前後のビルを多くした方が実用性が高い。

 この様に技術の限界より遥か以前にとっくに実用的限界に達してしまった昨今、やたらと高さを競い合う意識を捨てないと国家の滅亡に繋がる。

これは私の解説するサイト「ある作家のホームページ自然科学と技術技術亡国東京スカイツリーの無意味な高さ」の抜粋なので興味をお持ちの方はそちらをご覧頂きたい。

古舘 真
ある作家のホームページ