技術亡国論 その3「島国の鉄道技術」 --- 古舘 真

アゴラ編集部

新幹線など自慢の鉄道技術を擁しながら国際競争で苦戦する日本。北海道新幹線など国内問題と共に日本の鉄道技術の課題について軌間問題に重点を置き検証する。

世界で苦戦する日本の鉄道技術

世界各地の高速鉄道計画に対して日本、フランス、ドイツ、中国などによる激しい商戦が展開されているが、日本は大苦戦している。

日本が受注にこぎつけたのは台湾や英国など一部に限られ、良い所はフランスやドイツに持って行かれる有様だ。

それどころか日本人が技術的に格下と思い込んでいる中国にさえ受注合戦で苦戦している。 


技術自体は文句が付け様のないほど素晴らしいが、売り込みが下手なのか。

それとも実は技術自体に根本的欠陥があるのか検証を進めてみよう。

ガラパゴス技術

日本の鉄道技術について中国の関係者は「中国の技術は日本の様な島国の技術とは訳が違う」と揶揄する。

実際、日本が鉄道開発で受注したのは英国や台湾の様な島国が多い。陸地に占める島国の面積は狭いので不利な要素だ。

これについては不可抗力的要素とも言えるが、地理条件などと無関係に日本人の偏屈さによる面も多分にある。

後で述べる軌間問題などが典型だ。日本では日本特有の狭軌と世界的標準の標準軌を併用している。このため相互乗り入れが出来ないのだが、その点が大きなハンディとなっている。

また、新幹線の精密すぎるダイヤや極端に安全性を強調する点も外国の乗客からすると「もっと大雑把でも構わない」のだ。

世界標準を意識せずユーザーを無視した独善的技術という点では没落しつつある電機業界や建設業界と似たガラパゴス的性質を備えている。

軌間論争の停滞

軌間(レール幅)については前項で軽く触れたが重要なので特に詳しく検証するが、既に述べた様に世界標準は標準軌の1435mmで大半を占める。

軌間が共通している方が何かと便利だが、日本で2通りの軌間がある理由は要するに明治政府の中枢が軌間問題をよく理解していなかったため日本特有の狭軌を採用したためだ。

それについては当時の人が素人だったので仕方ないが、その後、改軌論争が度々発生するものの立ち消えになっている。

要するに「既に多くの鉄道で導入したので変えるのは面倒だ」という日本的発想だ。

最近では更に内向きになって軌間問題など全く話題にもならない。それが国内での高コストに繋がると共に前項で述べた様に外国にも進出しづらい大きな要因となっている。

新幹線は無事故で当たり前

新幹線の売りの一つが安全性だ。「開業以来重大な事故が発生していない」と言われる。

ただ、とんでもない死亡事故が頻発する中国の鉄道と比べると自慢になるかもしれないが、フランスのTGVやドイツのICEと比べた場合には必ずしも自慢にはならない。

なぜなら、フランスのTGVなどは専用路線だけでなく一般の鉄道車両と混在して走行する路線もあるからだ。TGVの大事故はいずれも専用路線以外で発生している。

従って在来線が完全に分離されている環境の新幹線とは状況が全く違う。日本でも新幹線以外の鉄道事故はしばしば発生している。既に述べた様に超高速鉄道を単独で運営したいという国は少ないので鉄道全体として安全かどうかを見なければ無意味だ。

北海道新幹線の課題

私の地元の北海道にも新幹線が通る計画になっているが、北海道民から積極的な賛成意見を聞いた事が殆どない。

北海道新幹線については賛成か反対かという単純な二極分化議論になっている。これは多くの事象で見られる日本的対立の構図ではあるが、北海道新幹線問題についてはそれ以外に軌間が重要な意味を持つ。

人口が5百万人程度に過ぎない北海道に新幹線という超高速鉄道と在来線という妙な呼び方をされる従来の鉄道が配置される事になる。

同じ種類の乗り物でありながら軌間が違うために原理は殆ど同じであるにも関わらず全く別の乗り物として扱わざるを得ない。

「何が何でも北海道新幹線を開通させる」というならせめてこれを機に軌間を統一しようという機運が高まってくれれば良いのだが、そんな雰囲気は全くない。

青函トンネル内に関しては三線軌条が使われるが、これにしても軌間を統一していれば函館まではとっくに開通出来ただろう。

新幹線は超高速なので電源方式や路盤の強度や曲率半径などの点で在来鉄道と全く同じ線路を走らせる事は困難だろうが、軌間を揃えていれば特に都市周辺などで大幅なコスト節減が見込めるだけに軌間論争が出てこないのは残念だ。

結局無駄な事業となってゼネコンを儲けさせるだけではないかと思う。

 これは私の解説するサイトある作家のホームページ>自然科学と技術>技術亡国>島国の鉄道技術を編集したものなので興味のある方はそちらをご覧頂きたい。


古舘 真