4月26日(木)18 :30から、アゴラ起業塾「ソーシャルゲーム産業の急成長の理由と問題」というテーマで講演をさせて頂く。その予稿として、ソーシャルゲーム産業を見ていく上での理解しておくべき、当日議論の論点の一部を提供しておきたい。
このセミナーでは、今のブームとして盛り上がっている状況について説明するだけではなく、歴史的な視点に位置づけ、それが将来にわたって与えるインパクトについても最新の情報を盛り込みながら紹介するつもりでいる。まだ、若干席は残っているようなので、関心のある方には、ご参加頂けると幸いである。
足かけ6年書かせて頂いている日本経済新聞新聞の連載「ゲーム読解」では、この数年間、様々な形でソーシャルゲームについての記事を書かせて頂いているが、総論としてまとめた形での議論をメディア上で行ったケースは少なく、それを行わせて頂きたいと思っている。
ソーシャルゲーム市場は、08年ごろから急激に立ち上がった、この市場の隆盛ぶりは、多くの方にとっては疑問と戸惑いを感じられるのではないだろうか。ゲーム自体も実際にやってみないと分からない部分があり、また、急激過ぎる成長は何か妙な仕組みを抱えているのではという疑念も生み出しやすかった点も抱えているだろうと思っている。
ただ、この数年の変化に力点を置くのではなく、コンピュータの発展史のなかに位置づけることで、非常に強い魅力をいつの時代も持っていたコンピュータゲームを中長期的な観点から見ると、こういう事象が起きていくことは必ずしも驚くべきことではないがわかる。
■特徴として~日本のケース、海外のケース
・日本では昨年3000億円で、今年は4000億円を越えるという予測が出始め、家庭用ゲームソフトウェアの市場規模を追い抜くペースでの成長を続けている。コアなゲームユーザーからは「もしもしゲー」と馬鹿にされながらも、継続的に遊びつつけているユーザーにはコアなファンも楽しんでおり、もはやライトユーザーだけのゲームではなくなっている。
・欧米圏では今では8億人を抱えるFacebook市場を中心に数年間で2億4000万人ものユーザーを抱えるゲームプラットフォームをかかるジンガという化け物のようなゲーム会社が登場した。この成長ペースは、過去のどんなゲームプラットフォームよりも速く、人数が多い(大ヒットしたニンテンドーDSでさえ、1億台である)。
・成功している企業の経営者は、全世界的にウェブ系企業の出身者が多く、また、経営者が若いところにも特徴がある。
■なぜ、こうした現象が起きているのか
・広義の意味での「ムーアの法則」に大きく支えられている。ユーザーが所有する携帯電話、スマートフォンなどのスペックが、ムーアの法則に支えられ急激なペースで成長をしており、同時にネットワーク回線の速度、サーバの処理速度といった周辺環境の性能も向上が続いている。そのため、ユーザーが所有する環境で様々な表現を行いやすい環境が整ってきている。
・また、パッケージゲームとの決定的な違いは、パッケージを必要としないネット流通の発展ともう一つの鍵にある。
■ソーシャルゲームはなぜ高収益を出せるのか
・デジタルデータ化できるデータは、すべてが著作権が消滅するような自体に直面しており、収益を出しにくい状態が生まれている。これは、テキスト、音楽、動画など全てのメディアに共通している。しかし、ソーシャルゲームやオンラインゲームは、ゲームの体験を生み出すための「鍵」を、自社のサーバに持つことができている。それが最も重要なポイント。
・インターネット接続によるオンデマンドによってわざわざ専門のゲームショップに行ってゲームを購入する必然性がないこと。最初にゲームを遊ぶ場合に、「無料」から始められるため、プレイのための初期コストが圧倒的にパッケージゲームよりも安く参入がしやすい。「無料」ユーザーも、「課金」ユーザーも等しくその仕組みから恩恵を受けている。
・そのため、一部のユーザーの課金収益によって売上を出しているというものは、しばしばソーシャルゲームの不健全性として指摘されるが、必ずしもそうではない部分がある。では、誰が積極的に遊んでいるのだろうか? これは日米では少し差がある。
■世界のソーシャルゲーム市場はどこに向かうのか
・ソーシャルゲーム将来性を見るためには、日本だけの動きを見ているだけでは見誤る。日本の持つ特徴は、海外で持つ特徴とレイヤーが違っているだけで、起きている根本的な現象は類似している面がある。同時に似ていない面もある。
・現在世界を牽引しているのは、サンフランシスコ・シリコンバレー地域を中心としたクラスター地域で、ゲームだけに起きているイノベーションではない。また、アメリカだけが優位だけではなく、強力なプレイヤーは、欧州にも存在しており、それらの企業との激しい競争が押し進められている。
・ガラケーによって市場形成を進めることができた日本企業にとっては将来も含め、市場成長に限界がある。そのため、二つの重要なポイントがある。一つは、ガラケーから急激にシフトが始まっているスマートフォンにどのように対応していくのか、また、海外進出は成功できるのかどうかだ。これは、日本のゲーム産業の将来にとっても大きな意味がある。
■日本のソーシャルゲームが抱える課題
・日本のソーシャルゲームは、未成年者保護の問題、RMT問題、射幸心の問題といった社会問題に直面している。市場あまりに急速に立ち上がったことの社会の側の困惑と間違った理解、企業がそういう問題に対して不慣れであったために引き起こされた点が、大きなポイントとして上げられる。
・論点は整理されつつあるため、日本社会での的確に定着していくためには、これらの問題に迅速に対処し、日本社会に認められることが早急に必要だ。これは、世界進出も含め、将来的な成長にとってとても重要なことである。
■ソーシャルゲームの未来はどこへ向かうのか
・ソーシャルゲームは、今後もムーアの法則に影響を受けながら成長を続けていく。現在のソーシャルゲームの形が完成形であるとは考えてはいけない。様々な発展の可能性を持ちながら、今後も様々なゲームや、新しいタイプのゲームが登場してくることは間違いない。
・ソーシャルゲームは、その意味で、様々なサービスがクラウド化によって進んでいるように全体が「クラウドゲーミング」の方向に向かっている。リッチなコンテンツを提供できる方向により向かうだろうが、同時に、別の広がりも読みとれる。そこにも一定のパターンが読みとれる部分があり、様々な兆しを読みとることができる。そのため、ソーシャルゲームのブームは一時的に終わるとは考えにくい。サービスの形を変えながら、広がりを生み出していくだろう。
26日(木)のセミナーではこれらのトピックを中心に、ソーシャルゲームの仕組みを詳しくご存じない方から、その特徴を解説し、成長の要因を説明し、日本と海外との比較を行いつつ、ソーシャルゲームに留まらない、歴史的、世界的な俯瞰像を見ることができるような視点を、理解して頂けるような内容にするつもりである。
終了後にも積極的にご質問を受けたいと思っているので、現状の数少ない日本の成長分野に関心のある方、将来を検討されている学生の方など、ご参加をいただけると幸いである25日(水)まで申し込みは受け付けられており、入金が確認できれば、大丈夫とのことである。
ついでではあるが、様々なところで記事としてまとめる場合には、一度に執筆できる文字数に限界があるため、ぶつ切りにこうした情報を書いてきているが、総論として書籍といった形でまとめていない。私自身も一度まとめたいと思っている。他の方が、論じられていないような視点で、過去、現在、未来を見ていく視点を持った書籍を執筆するための用意が、私にはある。そのため、上記のような内容について、書籍化に関心のある出版社の方がいらっしゃったら、ご一報を頂きたい(メアドはTwitterのプロフィールに記載してある)。
新清士 ジャーナリスト(ゲーム・IT) @kiyoshi_shin