野田政権に顕著な一貫性の不在

山口 巌

読売新聞の伝える所では、地元住民の激しい反対を受け、野田首相は滞在先のワシントンで大飯原発を再稼働しない可能性に言及したとの事である。

野田首相は30日(日本時間1日)、ワシントン市内での同行記者団との懇談で、関西電力大飯原子力発電所3、4号機(福井県おおい町)再稼働の是非について、「あくまで地元の一定理解があるかどうかだ」と述べた。その上で、地元の理解が得られない場合、原発の再稼働なしに節電のみで夏を乗り切る可能性について問われると「全く理解が頂けないなら、そういう選択肢はもちろんある」と述べた。

客観的に見て、現在の状況で地元住民が原発稼働容認に回る可能性は考えられず、再稼働は当面可能性ゼロと言う事であろう。

橋下大阪市長は別格としても、関西電力対象地域の各知事も再開に反対しており、上げた拳の振り下ろし先がない状況で、そうたやすく旗色を代えるとは思えない。

何分、ここに至るまでの政府対応は悪すぎた。

先月のアゴラ記事、仙谷氏の昨日の発言に就いてで説明した通り、政府が地域住民にきちんとした説明をせず、にいきなり「再稼働」ありきで、「上から目線」で話をしても、結果、怒りの炎に油を注いだだけであった。

きちんとした数字を示す事無く、「集団自殺」と言う判り易い表現で国民の「不安」や「恐怖」を煽り、原発再稼働に誘導を図ると言うのは、政権与党に取っては本来禁じ手の筈である。根底にあるのは、自分達に比べて国民は知的レベルが低く、説明してやっても理解出来ないと言う思い上がりではないか?国民を愚民扱いにしている訳である。面倒で手間かもしれないが、矢張り拙速を避け、国民に向き合って下記項目を丁寧に説明すべきと思う。

停電が発生するか否かは、無論「節電」が何処迄貫徹されるかにも依るが、真夏(2ヶ月後)の天気と気温次第である。

実際に停電が発生し、不幸にして熱中症で命を落とされる方が出たり、製造業が稼働出来ず、結果、廃業したりベトナムやミャンマーに移転を決断し、地域に失業問題が起こり、初めて原発稼働停止の本当の意味を理解する事になるのであろう。

看過出来ないのは、NHKが野田首相が同じ日にオバマ大統領と首脳会談を行い原子力エネルギーの平和的利用に関与する事を合意していると報じている点である。

さらに、エネルギーについては、再生可能エネルギー源の開発や原子力エネルギーの平和的、安全・安心な利用、それにエネルギー安全保障の協力に関与することを確認するとしています

   
オバマ大統領にこういう確約をしておいて、舌の根も乾かぬ内に、国内、地元が反対するなら原発再稼働は無理と、早々に白旗を掲げるのは、相手国に不信を与えるのではと危惧するのである。

アメリカが日本に対して原子力開発での協調を求めるのには、それなりの理由、背景がある。

昨年4月のアゴラ記事で説明した通り、アメリカは一貫して地政学的リスクの高い中東への依存を減らそうとしている。

先ず思いつくのは、前政権ブッシュ時代に余りに中東に前のめりに突っ込み、結果多くの戦死者を出し、アメリカ経済を悪化させた反省、反動があると思う。露骨に言えば、中東はもうこりごりと言う所ではないか?そして、本質的な点を言えば、飽く迄推測であるが、石油の中東依存を弱め、二酸化炭素を排出しない原発を次代のエネルギー政策の屋台骨に置こうとしているのではないか?

次に、二酸化炭素削減の切り札を原子力発電に置いており、国内エネルギー消費の20%を占める輸送機をEVに替えようとしているのではと推測される点は注視されねばならない。

先ず、自動車は可能な限り電気自動車(EV)に代える。次いで、電気自動車(EV)による新たな電力需要は原発の新規建設とスマートグリッドによる節電で補う。これにより、アメリカ経済に取って重い十字架である、二酸化炭素削減問題もかなり改善する筈である。悲惨極まりない福島原発事故の当事者である日本が、脱原発に舵を切る事は、国民感情から言っても極めて当然の話である。しかしながら、今一方の事実として日本はその安全保障の軸足を日米同盟に置いている。従って、安全保障の中核をなすエネルギー政策、電力政策に於いては、可能な限りアメリカと協調すべきである事をを忘れてはならない。政治主導とは、今回日本が直面するこの相容れない2つのテーマの得失を冷静に分析し、日本の進むべき道を策定し、国民に示し、リーダーシップの下、国民を引っ張って行く事の筈である。

この記事を書いたのは既に一年以上も前だが、民主党政権に具体的行為は無く、結果、放置されたままである。

欧米の識者、論者と話をして良く話題に出る言葉の一つが、「Consistency=一貫性」である。

そして、一貫性が感じられないとか、或いは一貫性が無い等と言う表現は人、企業そして政府を問わず、最低評価を意味する。

対米関係を重視し、核開発に於いても二人三脚で進めて行くと言うのであれば、先ずは民主党として昨年の管前首相による浜岡原発停止の可否を検証せねばならない。

対米外交のハードルとなっているだけではなく、昨年足下を見られた電力会社が通常の3倍の価格で液化天然ガスを輸入に追い込まれる元凶となっている。

勿論、これが昨年の貿易赤字の最大要因である。

財政状況の悪化を理由に、国民に対し「消費税増税」を訴えるのであれば、無意味に何兆円もの国富を溝に捨てた前首相の行為を先ずは厳しく追及すべきである。

何故、菅前首相を民主党から除名しないのか不思議でしょうがない。

山口 巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役